第十章 氷とウィスキー

マンションのリビングで、瀬川は礼子からの手紙を読んでいる。

テーブルの上には、この部屋のカギがスペアキーと共に置いてある。


今更ながら、失ったものの大きさに驚いていた。

女を愛していたと今、気づいたのである。


女は自分の衣類と小物の他は、全て置いていったようだ。

自分が買い与えた物ばかりだった。

誰もいない部屋で、瀬川は手紙を読んでいる。 


男は苦笑した。

何か、肌寒いのだ。


こんな事ならもっと優しくしてやればよかったと思った。


男はコップに氷を入れ、ウイスキーを注ぐと静かに飲み始めた。


苦そうに顔をしかめた。

こんな時、男は飲むしかできない。


待ってみるか、と思った。

そう言えば、何年待たせたのだろう。


女の後ろ姿が目に浮かんでくる。

細い肩がいつも寂しそうに震えていた。


今は自分が寒さに震えている。

今日は何日だろうと、男は思った。


カラリ、と氷が溶けた。

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