第九章 決心
バターナイフをとろうとした手が触れると、二人は顔を赤らめた。
昨夜の余韻が指先から礼子の心にしみ込んでくる。
男は照れ隠しするように、目の前の料理を旺盛な食欲で次々と消していく。
礼子は頬杖をつきながら、幸せそうに見つめている。
「ねえ、おいしい?」
心の底からうれしさが込み上げてくる。
男の仕種の何もかもが、礼子が思い描いていた夢のワンシーンに重なっていく。
男は顔を上げると、言葉の代わりに子供の様な笑顔を見せるとコーヒーを満足そうに飲み干した。
ゆったりと時間が流れていく。
冬の季節の間、ひっそりと眠っていた芽がツボミを膨らます様に二人の愛が今、目を覚ました。
眩しい朝の光りに目をしかめながら、男はくすぐったそうな笑いを浮かべて言った。
「それじゃあ、あとで・・・会社で」
女のこぼれる笑顔に見送られて島田は帰っていった。
礼子は玄関のドアを閉めると、それにもたれる様にして口びるをキュッと噛んだ。
瞳の中に、決意の光りが宿っていた。
その日、女は出社して来なかった。
間も無く、瀬川と島田の元に手紙が届いた。
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