第25話 Tシャツ
Tシャツが似合うひとが羨ましい。
自分で言うのも残念だが、私はTシャツが似合わない。でもまあ日本人って似合わないひとの方が多いよなとも思ってる(←個人の感想です)。
私の考える『Tシャツの似合うひと』は、男性なら肩幅があって、それもなで肩じゃなく横に真っ直ぐ、体型的には逆三角形で、できれば小顔で、って要するにオー〇ニくんみたいなイメージ?
女性だと首がすっと長くて、鎖骨がきれいに見えて、二の腕がたぷつかずまっすぐに長いひと、って断っておくけれど痩せ至上主義な訳ではない。単なる好み。
中でも男女問わずいいなあと思うのが、白いTシャツにジーンズ、それだけでさまになるひと。
年を取ると、どんなに頑張っても(ちっとも頑張ってないけど)体型は崩れていく。重力にはあらがえないし、張りは失われていく一方。胸もお尻も垂れ始め、二の腕なんて太くなっただけでなくぷよっぷよのぽにょんぽにょん。年齢ってやつは正直且つ残酷だ。
ただ、体型的にはアレでも、着こなしというか雰囲気というかとにかく味が出る、いわゆるひとつのビンテージ、そんな感じでここから先、Tシャツとジーンズを着こなせたらカッコイイよなあ、みたいな憧れめいたものはある。オトナの魅力、オトナの余裕、って感じの。
これが下手をすると、ただ単にみすぼらしくくたびれて見えてしまう。そうなったらそれこそ目も当てられない。
そこら辺の見極めって難しいなとしみじみ思う。特に自分のことは分からない。ひとに「みすぼらしくなってない?」と聞く訳にもいかない。仮に聞けたとして正直に答えてもらえるとも思えない。
なので似合わないことを自負している私としては、元からTシャツにはあまり手を出さないし、近頃ではTシャツで外出しようとして躊躇してしまうこともある。安くて着やすくて汗かきの私には便利だから結局は着ていくのだが、どうも居心地の悪さが抜けきれない時が出てきてる。オトナの魅力を探求する所ではない。
なのに。
押し入れの中にはTシャツの山。それもほぼ全部がビニール袋に入ったままで、私の人生あとどれくらい残ってるのか知らないけれど、これから先もう1枚も買わなくても一生Tシャツ着て過ごせるんじゃないかって分量になっちゃってる。
なんでか?
──『推し』のせい、だ。
Tシャツ、って便利なんだもの。推し活には。
現場で物販見たら、何か買わなきゃって思ってしまう。でも、大抵のものはもう要らない。何せ人生後半戦、断捨離世代。ここから先、いかに身軽になるかは重要課題のひとつだ。
それでも「買いたい」ってなった時に、Tシャツは自分に言い訳ができる。だって着られるでしょ、実用性あるでしょ、って。
現実には実用してないから死蔵されている訳で。いくら好きだからって、ひと目でそれと分かるTシャツ着て、街中に出て買い物や病院や銀行行ったりはできない──小心者の私には。
でも、欲しい。
この相反した感情に、4月、約1年ぶりの『推し』の現場で囚われた。
その日、私は物販に並ぶ同年代の方々の長い行列を見ながら「どうしよう?」と延々と悩んでいた(はっきり言ってただの優柔不断)。見かねた『推し』友曰く。
「買えばいいじゃない」
「ひとには言うけど自分だって買わないじゃないよ」
「後でネットで残ったの見るからいいの」
「分かる。並ぶのイヤだもんね。でも、うーん。どうせ着ないと分かっててもそれでも悩むのって何でだろ?」
「私、最近パジャマにして着てるよ」
似たような手は実は私も使ったことがあった。パジャマ代わりに旅行に持っていき、旅行先で落ち合った友人に「良かったら着て」と押し付けて帰ってきたのだ。ロゴ入り白T、今も持っててくれてるかは……不明。
「だって着ないともったいないじゃない?」
そう。ホントもったいない。もったいなさ過ぎてそのうち押し入れからモッタイナイオバケが出てきそう。
友の言葉に激しく同意した私は、結局その場では買わずに帰宅。頭冷やして後でもう一度考えようと思って。そもそもTシャツと言えど『推し』グッズは安くない。
で、ネットショップで販売開始になってからも、パソコンの前で延々と悩む羽目に陥った。敵? も然る者、こちらの脆弱な心を今度は搦め手で攻めてきたのである。見るだけと思って見たら、『〇〇円以上お買い上げの方に先着順でアクスタ(アクリルスタンドのこと。今回初めて知った)お付けします』だなんて、あんまりじゃないか。
PC画面と押し入れの山とを交互に見比べ続けた私は、搦め手をハナ差でかわしきった。
まず、パジャマにしてみるのが先だと。
と言うことで、『推し』Tを着て寝ている。これが結構いい感じ。高いだけあってか生地がしっかりしていて洗ってもへたらず、前面の派手なプリントがだらけたからだをいい感じに隠してくれる。
『推し』T、万歳!
これでいい夢が見られたり、熟睡できたら尚良しだが、さすがにそこまでのご利益はないようだ。それでも何となく気分がいい。それはきっと、パジャマなら似合う似合わないに関係なく、単純に好きで着ていられるからじゃないかと思っている。派手な柄のTシャツにスエットパンツ、とオトナの魅力にはほど遠い姿だけれど、それもまた私らしくていいかと思っている。
*
付け加えますと、パジャマにして着ていって、それで今持っている『推し』T全部着倒せるかと問われたら……むにゃむにゃって感じですが、それでも「無駄にしてないもんね」という気持ちも悪くないです。
実は私には『推し』がふたつありまして、ひとつは赤い国、4月の現場はもうひとつの方でした。そちらの方がTシャツ所有率は格段に低く、ということでまずパジャマにしたのは赤い国の方です。
ただし、これからの季節、赤を着て寝ると何だか寝苦しくなりそうな気がした為、紺地のTシャツを着ています。これは現地に応援に行った際GETしたコラボ物。結構レアじゃないかと思ってるんですが、真偽の程は不明です。赤Tは冬、長袖の上に重ね着して寝たら暖かく感じるかな? だったらいいな。
なんて、わずかでも減らす方向で進んでいることににんまりしていたら、この時期にしては珍しく? 赤い国がいい感じ。これで(うっかり?)このまま優勝したら、きっとまた記念に買いたくなるはずで、しかもその場合ビールかけTシャツのはずで、で、あれ着て寝るの? だってビールかけTシャツだよ? 万一、夢に見たら……。
一歩進んで二歩下がりそうな、『推し』と断捨離の両立の難しさを痛感している今日この頃。ちなみに6月恒例、青い国のビール半額DAY、今年は対象チームが赤い国でなくなった為、観戦予定が泡と消えてしまいました。だからといって遠征しに行けるような財政的余裕はなく。夢の中で観戦、応援するしかないのか? と少々ふてくされ気味の私です。
むにゃむにゃもにょもにょ 満つる @ara_ara50
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