バレンタインデーと幼馴染

御峰。

折り紙

 俺は武田たけだ裕史ひろふみ

 大学も間も無く卒業して、元々住んでいた地元の企業に内定が決まっている。

 実家は大好きで、都会の生活は何一つ惜しみなく、寧ろ実家がある田舎に引っ越す事がとても楽しみだ。


 そんな俺に子供の頃からの付き合いがある隣人がいる。

 佐々木ささきりん

 それが彼女の名前だ。


 俺と彼女は幼稚園から一緒で、それから同じ小学校、同じ中学校、同じ高校にまで進学した。

 しかし、彼女とは長い付き合いだが、あまりにも幼い頃からの知り合いなので、恋愛関係になる事もなかった。


 そんな俺にとって『バレンタインデー』は、とても不思議な一日だ。


 その理由は、小学二年生の頃の出来事にさかのぼる。




 ◇




「ひろ!」


 後ろから俺を呼ぶ声がした。

 聞き慣れた声は、すぐに誰かが分かるほどだ。


「りんちゃん。どうしたの?」

「今日、何の日か分かる?」

「えー、分かんないよ」

「…………これだから男の子は駄目ね! 今日は『ばれんたいんでー』という日なんだよ!」

「ばれんたいんでー?」


 自慢気に胸を張ってそういう凛。


「今日は女の子が男の子にチョコをあげる日なの!」

「へぇー、なんで?」

「…………これだから男の子は駄目ね! 黙って貰いなさい!」

「う、うん」


 元々甘いお菓子が好きな俺は、彼女がくれるチョコを何気なく貰った。

 可愛らしくデコレーションされた箱の中には、美味しそうなチョコが沢山並んでいた。

 こんなに沢山貰ってもいいのだろうか?と思ったのが、最初に思った感想だ。


 彼女に感謝を伝えると、中身を捨てたら怒るからねと言われた。


 中身?


 中をよくよく見ると、チョコ以外にも可愛らしい折り紙が一緒に入っていた。

 その折り紙は兎の形をしていた。


 捨てたら怒るらしいので、捨てる事も出来ず、俺は箱と一緒に折り紙を一緒に仕舞った。


 あれから毎年のバレンタインデーになると、凛から「義理チョコだからね!」という訳の分からない単語を言われながら毎回チョコを貰った。

 毎回「中身を捨てたら怒るからね」と言われる。

 中身は美味しいチョコと、折り紙が一つ。


 一年目は兎だったけど、二年目は象さんだった。


 そして、それも高校三年生まで続いた。



 大学生となって俺は、毎年春休みに実家に帰ってきた。

 その時に限って、凛は俺に義理チョコを渡してくれた。


 長い付き合いだけど、律儀な幼馴染だなと思う。



 大学を卒業して、俺は実家に帰る事になった。

 外はまだまだ寒い時期だが、昼となると暖かさを感じられる季節となっていた。


「ひ、ひろ!」


 少し焦ったような声が聞こえる。

 忘れるはずもない。

 幼馴染の声だ。


「りんちゃん。久しぶり」

「う、うん! ひ、久しぶり!」


 すっかり大人になった凛は、町でも評判の美人さんだと親から聞いていた。

 何故か大学には行かず、家の仕事を手伝っているのだが、大学に行っていれば、今頃彼氏一人や二人くらいいるに違いないだろう。


「え、えっと……こ、これ」


 少し気恥ずかしそうに俺に箱を出す彼女。


「ん? これ何?」


 そして彼女は不安そうに答えた。










「最後の…………バレンタインチョコだよ?」




 少し寂しそうな表情で、そう呟く彼女。

 既にバレンタインデーとは随分とかけ離れているけど、どうしてなのだろう?


「えっと。家に帰って、中身をよく見て欲しい」


 そう話す彼女は何処か悲しそうな目をしていた。

 幼馴染のその姿に、珍しさを感じながら帰った俺は、箱を開けた。


 相も変わらず美味しそうなチョコが沢山並んでいる。

 以前聞いた時、全て自作だという。

 板チョコ溶かして模っただけらしいけど、それにしてはとても美味しい。

 きっと、隠し味とか色々入れているのかも知れないね。

 それなら、凛の料理の腕がますます上がっているのかも知れない。

 これなら良い旦那さんに出会えそうで安心だ。



 あ、そう言えば、中身をよく見て欲しいと言われたっけ。

 中には相変わらずの『折り紙』が入っていた。


 今回は鶴か~。

 毎年違う折り紙が入っていたっけ。


 何となく、懐かしくなって昔貰った箱を取り出して並ばせる。

 意外にも、全て順序良く保管していたので、貰った順番も分かるほどだ。


 良く見ろ……と言われましても……。

 これで何が分かる……んだ…………ん?

 そんな事を思いながら、どうして『折り紙』なのかを考えてみる。


 折り紙って、元々は『紙』だ。


 紙って元々は…………書く為の媒体だ。


 つまり。

 良く見ろって事は……。


 俺は恐る恐る、折り紙を丁寧に解いた。


 そして、最初に貰った兎の折り紙の中には、『だ』という文字が書かれていた。


 『だ』?


 そもそもここに文字が書かれている事に驚いた。


 つまり、今まで貰った折り紙の中に、字が書かれているかも知れないって事?

 俺は大急ぎて、それぞれの折り紙を解いて、中に書いてある字を並べた。











「だ、い、す、き、で、す、つ、き、あ、つ、て、く、だ、さ」


 小学二年生から大学三年生まで貰った折り紙の中身だ。


 そして、最後の鶴の中からは――――「い」と書かれていた。


「大好きです……付き合ってください……」


 小学二年生からずっと俺の事を好きで待ってくれていた彼女の事を思うと涙が溢れた。

 俺は真っすぐ彼女の元を訪れて「こちらこそ、不束者ですがよろしくお願いします」と返事をすると、「待って良かった」と少し涙に潤んだ瞳で満面の笑顔を浮かべてくれた。




――――後書き――――


 バレンタインデーに因んだ作品をと思いまして、書いてみました。

 みなさん。いかがだったでしょうか?

 あの御峰がこんな素敵な作品を書くなんて!――――と思ったお方!


 なんと! 2022年2月25日0:00 に御峰の純愛ラブコメがスタートします!


 ぜひ楽しみにしてくださると嬉しいです!

 ではまた新作でお会いしましょう!


 異世界モノでよろしければ、完結作や連載作がありますので、覗いてくださると幸いです!


 ※読み終えた方は、是非こちらのおすすめレビューコメントも読んでみてください!

https://kakuyomu.jp/works/16816927860751377000/reviews/16816927860774877227

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バレンタインデーと幼馴染 御峰。 @brainadvice

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ