第2話
私が美奈子さんと会ったのは、今から丁度一年前の、バレンタイン。
当時私には好きな先輩がいて、勇気を出して、告白したの。
授業が終わった放課後、先輩を呼び出して。チョコレートを渡しながら、「好きです、付き合ってくださいって」。
だけど残念ながら、答えはNO。後で知ったんだけどその先輩、実は付き合ってる彼女さんがいたんだよね。
告白って、成功しても失敗しても、今まで築き上げてきたモノが壊れてしまう。
成功して、ラブラブになれたなら良いよ。だけどフラれてしまったら、もう元の先輩後輩の関係には、戻ることすらできない。
失意のどん底に落ちた私は、そのままいく当てもなく町をフラフラ。
そしたら途中突然雨が降ってきて、もう最悪だった。
どんよりとした空と、降り注ぐ大粒の雨は、まるで私の心そのもの。
だけど雨宿りするために訪れたのが、美奈子さんのいる喫茶店だったの。
カウンター席に座って、嫌なことを忘れようとやけ酒ならぬやけコーヒーを飲んでやろうとしたんだけど。
注文を受けたマスター、美奈子さんが言ってきた。
「本当にコーヒーでいいの?」
「えっ?」
「余計なお世話だったらゴメン。だけど悲しいことがあった時はコーヒーよりも、温かいカフェオレの方がいいかと思って」
言われて初めて、自分が泣いていることに気がついた。
そして一度意識したら、涙が止めどなく溢れてきて。泣いてる所を誰かに見られるなんて恥ずかしいのに、止めることなんてできずに。
すると美奈子さんはカウンターの奥から隣にやって来て、何を言うわけでもなくそっと肩を抱いてくれた。
で、ひとしきり泣き止んだ後は、勧められたカフェオレを飲んで。好きだった先輩にフラれたことを、美奈子さんにぶちまけたんだよね。
フラれた女のグチを聞くのなんて面倒くさいはずなのに、美奈子さんは嫌な顔一つせずに聞いてくれて、全部聞き終わった後、こう言ってくれた。
「その先輩、勿体なかったね。君みたいな可愛い子と、付き合えたかもしれないのに」
その優しい微笑みは、傷ついた心を癒してくれて、それ以来私はお店の常連になった。
美奈子さんと話すのは楽しくて、嫌なことがあっても忘れさせてくれるし、楽しいことは2倍になる。
最初に会った時に格好悪い所を見られちゃったけど、だからこそ変に気負うことなく自然体で接することができた。
数ヶ月が過ぎた頃には、フラれて泣いてたことだって笑い話になってて、美奈子さんと「あの時は驚いたよー」なんて言い合えるようになっていた。
「実はね。泣いている千代ちゃんを見て、昔の自分を思い出したんだ。実は僕も前に、バレンタインに好きな男子に告白して、フラれた事があったんだよね」
「え、フラれたって、美奈子さんがですか!? 格好いいしモテそうなのに、信じられない!」
「僕は全然モテないよ。告白した相手も、『俺より背が高い女子なんて無理』、だってさ」
何それ酷い!
確かに美奈子さんは背が高いけど、それはむしろ素敵な所。なのにそんな理由でふるだなんて。
ソ・ノ・オ・ト・コ・絶・許!
美奈子さんも、見る目がないよ。どうしてそんな人を好きになったんだか。
私だったら美奈子さんから告白されたら、二つ返事で付き合うって言うのに。
美奈子さんの話を聞いて、そんな風に思ったけど。
後で思えばこの時、相手が美奈子さん。女性であっても、付き合うことに何も疑問を感じていなかったんだよね。
気がつけば惹かれていて、好きになっていた。私だけを見てほしいし、独り占めしたい。
その気持ちは、前に先輩を好きになった時と、何も変わらない。
女同士ではあるけど、あの時と同じようにごく自然に、当たり前のように、気がつけば美奈子さんのことを好きになっていたのだ。
だから私は、出会ってから丁度一年目の今日、美奈子さんに告白した。
この気持ちを、どうしても伝えたかったから。
もしもフラれたら、一年前と同じ。もう元の関係には戻れないって、覚悟したうえで。
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