第3話 森

 顔に何か当たってる感触。腕を動かす。ゴロゴロと何かが当たった。掴んでみる。ざらっとしてる。これは……砂?いや土か。


 よく耳をすますとカサカサという音がする。枝と枝がぶつかり合って、そう木が風が揺れてるみたいな。……木?僕は学校の屋上にいたはずでは?


 目をゆっくり開ける。


目の前には土。どうやら僕は地面に倒れてるみたいだ。ごろっと仰向けに転がる。太い幹とそこから幾重にも伸びている枝、葉っぱが目に飛び込んできた。よく見るとそんな木々が縦横無尽に生えている。どうやらここは森の中のようだ。


 あまりの光景に僕は言葉を失う。学校にいたはずなのに何故?痛む頭をふり気絶する前の光景を思い起こす。蒼い蝶を追いかけ謎の人物との遭遇。そして暗転。


「どういうこと……?」


 何から何までよく分からない事ばかり。


「とりあえず今この場所をどこか調べないと」


 幸いな事にズボンのポケットにスマフォがあった。連絡手段はある。


「圏外……。まぁやっぱこんな森の中じゃつながらないか」


 あたりを見渡す。大きな木々が立ち並び、無雑作に雑草が生えている。木々はそこまで密集はしておらず漏れる光で完全に暗闇ではないのが唯一の救いだ。


「えっと、こういう場合は動かない方がいいんだっけ?でも、それって救助活動がくる可能性がある場合だろうし」


 遭難という言葉が頭に浮かびぞっとする。頭をふり、今浮かんだ言葉を消した。


「と、とりあえず。歩こう。そしたらもしかしたら道があるかも」


 地面は少し斜めってはいるもののそこまで角度はない。転ばないように、でも少し早歩きで下へ下へと降りていく。


 下りながらもしもの為に何か食べれるようなモノもあるのだろうかと思い少し周りを気にかけながら降りた。しかし食べれそうな物をみつけたはものの、どれが食べれるのか知識がなかったからすぐに道を探すことだけに集中した。


 しばらくくだっていると、坂道が平らになりはじめ、木々が開けてくる。


「だいぶ下まで降りてきたけど、相変わらず木しかない」


 代わり映えのない景色に項垂れていると視界の隅に動くものを見つけた。


「!?」


 熊?いや、それにしては小さかった気がする。

木に体を隠すと、地面に落ちていた手頃の石を持って気配がする方へ投げてみる。


ガサ


「っつ。やっぱ何かいる」


 姿形は見えないが、耳を澄ましてみるとべちょべちょと粘膜質の物体が何か地面に叩きつける音がした。その聴き慣れない音に寒気がする。


 耳を澄ましながらも好奇心が抑えきれず影から覗いてみると、ちょうど同じタイミングでその物体も木の影から現れた。


 形は紫色のゲル状の物体だ。所々白い粘液が分泌されて、その物体が動くたびに地面にべっとりと跡を残している。眼球はない。しかし、不思議とこちらを見つめているそう感じた。


 未知の生物の出現に真っ白になる。


「あ」


 それは一瞬だった。その紫色の物体は大きく跳ねると、僕の顔をそのゲル状の液体で覆った。


 息ができない。熱い。痛い。痛い痛い痛い痛い。


 顔からゲル状の物体が僕の体を覆うと、僕は溶けて消えた。

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