第2話 学校


「待ってよ!みーちゃん!」


 僕は必死になって彼女の背中をおった。


「あっくん。おそーい!早くしないと!蝶がどっかいっちゃう!」


 そうみーちゃんは僕を急かす。背丈が僕より大きいみーちゃんはそもそも歩幅が違う。


 それに走っている道を不安定だ。枝や木が邪魔をする。明らかに正規の道ではないそんな悪路をみーちゃんは持ち前の運動神経の良さも相まってひょいひょいっと越えていく。


 僕とみーちゃんの差がどんどん大きくなるのは必然だった。


 みーちゃんのスピードについていくのすら必死の僕には、この悪路はとてつもなく大きな障害物に見えた。


 足に大きな衝撃が加わった。


 大きく突き出た切株に足をひっかけてしまったのだ。僕はあまりの痛さにうずくまりながら、小さくなっていくみーちゃんの背中をただ泣きながら見つめた。



 嫌な夢を見た。子供の頃の夢だ。あたりを見渡すと日はだいぶ傾き教室には僕以外誰もいなかった。賑やかな昼間とはうって変わり、物静かな教室はまるで別世界にきたようだ。


 ぐっと背中を伸ばす。凝り固まった骨がボキっと嫌な音がなった。かなりの時間眠っていたみたいだ。正直今日授業を受けてた記憶があまりない。


 昨日徹夜して読書をしていたからだろうか?周りの皆も起こしてくれればいいのに、そう呟き席を立とうとした時。蒼い蝶が視線を横切った。


 見間違いかと思い、あたりを見渡す。今度は廊下を移動しているのを視線の端で捉えた。


「なんで蝶?」


 どこからか、迷い込んだのだろうか。それとも何処からか逃げ出した?普段なら特に気にもとめないだろう。しかし先程の夢もあってか、無性にその蒼い蝶が気になった。


 片付けようとした鞄を机に置くと、その蝶を追いかける。廊下に出ると僕を待っていたかのように、蒼い鱗粉の軌跡を残して階段の方に上がっていった。


 僕はどこか胸騒ぎを感じていたが、気づかないフリをしてその蝶を追った。


 2階、3階と登り、屋上へつづく扉の前までくると蒼い蝶が扉の中へ消えた。


「ここ屋上だよね」

 

 屋上のドアノブを手にかける。軽く回すと普段なら鍵が閉まっている扉が音もなく開く。


 屋上に出ると、不思議な格好をした人が立っている。大きな布を体に巻き付け、顔を布で覆っている。右手には細長い棒。よく見ると肩に先程追いかけていた蒼い蝶がとまっていた。


「だれ?」


「きて……」


「え?……」


 布を巻いた人物が僕に棒のようなものを向けると何事か呟いた。視界暗転する。意識を失う直前、布の隙間から見えた顔はどこか懐かしさを感じる顔だった。

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