グラディエイター

賢者

第1話 プロローグ

 薄暗い僅かな光が漏れる地下室で僕はその言葉が呟かれるのをただ待っていた。


 喧騒が聞こえる。数多の多種多様の言葉が熱がウネリとなり自分のいる地下室に響き渡る。空気が歪むほどの熱狂。一体全体どうしてそこまで彼らをここまで狂わすのだろうか。


 地上とは対照的に僕たちのいるこの地下室は嫌なほど静粛に満たされていた。微かな布の擦れる音、鎧の金属音が響き渡る。


 横に視線を向けると僕の対戦相手であり、同じように言葉を待つアルトゥスが目を瞑っていた。

 精悍な顔つき。剣の刺突でできた傷と肩から腹にかけてかかる大きな湾曲した剣の傷痕が幾たびも死戦をくぐり抜けてきた歴戦の風格を感じられる。


 横目で彼を盗み見ていると、それに気づいたのか目を爛々と燃やし僕に不敵な笑みを浮かべた。

 その挑発的な眼差しは新参者である僕に対しての確実の優位性と熟練者としての圧倒的な技量差、勝利の確信だろうか。それとも怯える矮小な僕の心を見透かしているからだろうか。


 その鋭い眼光に僕は闘志を燃やした。彼にも戦う理由があるのだろう。だが僕にもある。こんな所で負けるわけにはいかないのだ。生きて、生きてこの地獄から抜け出す。


 地上から乱波と木管の音が鳴り響く。それに合わせて喧騒のボルテージが上がっていくのを感じった。頂点に達した喧騒が、喝采にかわる。試合が終わったのだろう。「許せ!許せ!許せ!」「殺せ!殺せ!殺せ!」の大合唱。主催者の裁定が終わり。拍手が地下室にも聞こえた。


 重いハンドルを奴隷が回し、入り口を塞いでいた鉄格子が持ち上がる。


 鉄格子が上がると案内役が僕とアルトゥスを呼び出した。

 地上へ向け階段を登る。徐々に暗闇から光が晴れる階段を登りながら僕はここ数週間にあった出来事を思い起こした。

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