第11話 嫌じゃない
放課後のひと時だった。永遠は明日の朝、何を話そうか考えていた。
「永遠、最近なんか楽しそうだね?」
「そ、そんなことないよ?」
「えー。だって今だって鼻歌歌ってたよ?」
「嘘!?ご、ごめん。」
無意識に鼻歌を歌っていたらしい。相手が沙希でよかった。
「あー、もしかして、森川?」
「な!違うよ!」
図星だったので、思ったより声が大きくなってしまった。
「はっはーん。わかりやすい。」
「うー。」
「まあまあ、実際どうなの?」
「うーん、電車でちょっと話せるようになっきて、ようやく会話が成り立ってきたの」
「ど、どう言うこと…?」
「最初は、ああ、とか、ふーん、しか言わなくて。それでどうしようか悩んで、沙希に相談しようって思ってたの。」
「あ、あはは。森川ってなんかそんなイメージだよね」
「というか、沙希、知ってたんでしょ?」
沙希が知っていても不思議ではない。電車の中には同じ学校の生徒も居るのだから、森川くんと話していることを沙希が誰からか聞いて知っていても不思議じゃない。それで最初は大変なことになってしまった。
「噂はあったからね。でも噂は噂。私は永遠から聞きたかったし。あ、でも、この前はちょっと私が悪かったけど。永遠になんかあったらって森川って結構、不良だし…。」
「ぷ、なんか可笑しい。」
「わ、笑わないでよ。まあ私は森川のことよく知らないから。でも、永遠が楽しそうだから大丈夫かなって安心してるんだ。」
「沙希、ありがと。沙希も森川くんと話してみない?結構、かわいいところあるんだよ」
「あれが?まじで?」
「あれって、ひどいなあ」
「本当は学校でも話したいんだけどなぁ。でも多分、嫌がるだろうし」
「まあ、そうだよねー。学校の森川って一人って感じで友達といるとかイメージできないもん。」
「本当は優しい人?なんだよ」
「なんで疑問系?」
「だって、意地悪なんだもん。ただ、なんだろう。興味はあるかな…意地悪なんだけど、優しい…どんな人か気になってるって感じ?」
「ふーん、永遠は仲良くなりたいっと。」
「そうかも?」
「今度、電車で森川と話す時、私も入っていい?」
「ほんと?いいよ?」
「ふっふー、任せとき」
心強い反面、大丈夫なのだろうかとちょっと心配する永遠だった。
今日も電車学校へ向かっている。最近は寝るのをやめ、外を眺めている。電車が小金井に入るとホームに結城の姿が見えた。いつも通り、秋次が座る席の前に立ち止まる。
「おはよう。森川くん」
「ああ。」
「今日なんだけど、沙希が森川くんと話したいんだって」
「ああ。ああ?」
適当に返事したが、なぜ西村が何のようで話したいんだか…また面倒なことにならなきゃいいが…。
「ああ?って言われても…」
「はぁ…まあいいけどよ」
「嫌じゃない?」
「お前が聞いてきたんだろ」
「いや、うん。まあ、そうなんだけど」
「なんだよ?」
「私と話すのも本当は嫌なんじゃないかな〜って思ったり思わなかったり。だから、沙希も来たら森川くん嫌かな〜とかとか…」
結城の表情が不安そうな、悲しそうな顔になり、秋次も困ってしまった。
「嫌だからって違う席に行ったら負けたみてーじゃねぇか」
「えぇぇー、それって嫌…」
ますます、結城が悲しそうな顔になってしまった。避けたい訳じゃないのだが、言い方が悪かったのかもしれない。こういうのは苦手だ。少なくとも、結城と話すのは嫌ではないと思っている。
「それに嫌ならお前と話してないだろ」
「え?あ、うん。ありがと。えへへ」
結城の表情が和らいだ。結城のことは本当によくわからない。いや、そもそも女の気持ちはよくわからない。
「ああ。」
そろそろ西村がいる駅に着く頃だ。どうなるか分からないが早く来てもらいたいと思った。
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