第10話 毎日の日課

ガタンゴトンガタンゴトン…電車とは不思議なもので気がつくと寝てしまう。今日も宇都宮に着くまで寝ていくつもりだったのだが、今日もまた起こされた。

「森川くん、おはよう。おーい。森川くん?」

「はぁ。んだよ?」

「お、起きた。おはよう。森川くん」

「寝てねーし。毎朝毎朝、なんで話しかけてくるんだよ」


永遠は今日も考える。

「今日は何話そうかな…」

森川くんが毎日、同じ電車、同じ場所にいる事は助けてもらう前から知っていた。

なぜかと言えば、沙希から危ない人だからって1年の頃に言われたのが印象に残っていたからだ。

森川くんは小山から乗っていて私は小金井、沙希が石橋から乗ってくる。普段は沙希も同じ小金井なのだが、最近はおばあちゃんの家にいる事もあって石橋から乗ることが多い。


「いっつも、ああ、へー、しか言わないんだもん」

永遠は森川くんと会話をしたいと思って毎朝話題を考えて、小金井から沙希の乗る石橋に着くまでの約7分間、森川くんに話しかけていたが、一方通行で会話にならず、悩んでいた。

「沙希に相談しようかな…」

森川くんに話しかけていることは沙希には秘密にしていた。先日の誤解もあったこともそうだが、沙希がまだ森川くんを疑っているところがある。それに少し恥ずかしい気持ちもあった。

「今日は質問にしよう」

電車がホームに入ってきた。先頭から2番目の車両で端の席に彼はいる。


森川くんが座席にもたれかかって寝ている。普段の態度と全く違う無防備な姿がかわいいと思ってしまう。

「ごめんね。」

もう少し見ていたかったが森川くんを起こすため声を掛ける。

「森川くん、おはよう。おーい。森川くん?」

「はぁ。んだよ?」

「お、起きた。おはよう。森川くん」

「寝てねーし。毎朝毎朝、なんで話しかけてくるんだよ」

「きょ、今日は質問でーす」


「はあ?なんだよ」

今日は質問らしい。結城は何が楽しくて毎日話しかけてくるのだろうか。

「す、好きな食べ物なにかなーって」

「お前さぁ…」

「ご、ごめん…」

なんでそんなに悲しそうな顔をするんだか、秋次はそんな顔を見るよりはと思い答える事にした。

「ハンバーグと大学芋だな」

「え?そ、そうなんだ!」

今度は驚いている。なんなんだ…。

「お前は?」

「あ、うん!筑前煮とか?」

お次はぽかんとした後、嬉しそうにしている。何が嬉しいのか…。

「年寄りくさいな」

「な、ひどい。おいしいのに。大学芋もそんなに変わんない気もするけど」

今度は怒っている。大学芋って年寄りくさくないだろ。そう言えば、筑前煮はジジイが好きだったからかもしれない。

「うまいだろ」

「筑前煮だっておいしいのにな。苦手な物も聞いていい?」

「キノコ。まあ出汁とかいいが」

「そうなんだ。私はらっきょうかなあ」

「お子ちゃまだな」

「な、キノコよりマシだと思うなぁ」

また怒ってる。結城は怒ると顔が膨れるな…前の時もそうだが、結城は本当に表情がコロコロ変わるから見ていておもしろい。

「ふ…」

「あ、笑った!森川くん」

「笑ってねーし!」

「うー。いじわるー」

車内アナウンスで次は石橋と案内された。結城はいつもここで離れて西村を待っている。

「ほら、石橋に着くぞ」

「あ、うん…」

「また明日な」

「うん!」

暗くなったと思ったら今度は明るくなったり忙しいやつだ。相手をするのは面倒ではあるが、悪くはない。

「さて、寝るか…」

それから毎日、結城と他愛ない話をすることが秋次の日課になっていった。

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