第9話 面倒だな

「ごめんね、森川くん」

「どっちにしろ、こうなってたろうよ」

職員室に行った後、相談室に連れてこられ、担任平田、生徒指導の山崎による指導とやらに結局1時間以上付き合う羽目になった。


「森川、あなたがやったの?女性を襲うなんて最低よ?」

山崎は女性で40代くらいだろうか。その山崎の最初の質問がこれだ。

「は?なんでそんな事しなきゃならねーんだよ」

「あなた、この前も喧嘩してたでしょ?」

「殴り掛かられたから、殴り返した」

喧嘩というより、一方的に絡まれただけだ。

攻撃されたら防衛しなくてはならないよな。

「あなた。いい加減にしないと」

「話にならねーな」

キンキン高い声で騒いで話が関係ない方向に向かって面倒で仕方ない。決めつけから始まる時点で教師としては終わっている。

「あなたね!」

「山崎先生、ちょっと待ってください」

「平田くん、森川は散々注意しているんですよ?」

ぶつぶつ、言っているが秋次にとっていい話ではない。


「あの!違うんです!」

結城が声を上げ、表情からどうやら結城は怒っているようだ。

「いいですか!私は森川くんが助けてくれなかったら今頃、男の人に襲われてました!」

「結城さん、それはどういうことなの!」

「言った通りです。相手は5人いて逃げられなくて…でも、森川くんは助けに来てくれて」

「なんてこと」

「森川くんがいなかったら…私は」

結城は顔を手で覆って泣いている。

「すまなかった。森川」

平田が謝罪する。

「別に」

「本当に森川は関係ないのよね?」

山崎はまだ疑っているようだ。

「相手はナイフだって持っていたんですよ」

「警察に相談するべきだな。とにかく、事情は分かった。いいですよね?山崎先生」

「ええ、そうですね」

山崎が立ち上がり部屋を出ようとした所で結城が声をあげた。

「あの、森川くんを疑ったことは謝ってください」

「結城さん、疑うのは森川くんが不良だからよ?確かに助けたのかもしれない。でも、本当かは分からないでしょ」

「関係、ないです。」

「はい?」

「不良とか関係ないです。間違いは間違いですから謝ってください。」

結城の目は本気だ。優等生なんだから、大人しくしていればいいのに。

「あなた、いい加減にしなさい。不良の肩を持つのはよしなさい」

「もういい。行くぞ」

これ以上は面倒なので結城の腕をとり、部屋を出る。後ろから山崎が騒いでいるのが聞こえるが無視する。


結果、結城が事情をよく説明してくれたので、秋次自身になんらかのペナルティが課せられることも無く済みそうだ。少なくとも昨日の件は隠せるものではないだろう。いずれよりかは今でよかった。学校もなんらかの対応、対策は考えてくれるばすだ。

「あ、その手。」

「あぁ。悪いな」

結城から手を離し少し距離をとる。

「あ、あはは。なんか怒ってしまった」

「ま、いいんじゃねーの。それに、なんだ。悪かったな」

先を歩く結城が振り返り、立ち止まる。

「うん。いいよ。」

そう言って笑う。

「な、なんだよ」

「なんでもなーい。早く戻ろう。」

「なぁ。一ついいか?お前あの時、泣いたのか?」

「どうかなー?」

笑って誤魔化された。

「いいよ、先に行けって。教室に戻ったらもう俺に構うなよ。面倒だから」

「それも、どうかなー?」

結城は、そう言って教室に戻っていった。

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