第5話 今日くらいはな

その後は駅までこれといって話さず静かな時間が過ぎた。それから駅に着いて、湘南新宿ラインに乗り小山方面に乗った。


森川くんが電車に乗ると周りから人が離れる。

「そんな目つきで見るから」

「ああ?なんもしてねーよ」

森川くんは乗った瞬間、周りを鋭い目つきで見ていた。多分、この人の自覚ないんじゃないかな…と永遠は内心思った。

「お前、どこで降りんだ?」

「小金井、小金井で降りるの」

「そうか」

「森川くんは?」

「ああ。次の駅」

「小山なんだ」

それからまた小金井まで静かな時間が過ぎたが、永遠にとって嫌な時間ではなかった。


電車が発車し駅にはそれなりの人が降りて行く中、二人の男女がそこに居た。

「あれ?森川くん?」

「ああ。近くまで送る。別に家までは送らねえ。なんかあったらめんどくせぇから」

「そ、そっか。じゃお、お願いします」


そこからは結城について行きながら、やっている事が自分らしくないことを自覚していた。とはいえ、もしあの時見て見ぬふりをしていたらもっとめんどくさい気分になっていたと思えば今日くらいはいいかと秋次は思った。

「ここで大丈夫。森川くん」

少し離れた場所に住宅地が見える。そのどれかが結城の家なのだろう。

「ああ。じゃあな」

「あの!また明日」

「いや、まあもう関わることもねぇと思うけどな」

秋次はもう関わる気はなかった。結城は人気らしいから関われば面倒なことに巻き込まれるし、結城が秋次の事情に巻き込まれることもあるだろう。それは面倒だし、今の変わらない平凡な時間で十分だ。だから、秋次は振り返らず立ち去ることにした。


永遠は家に帰って、お母さんに今日の出来事を話した。二人で泣いてしまったし、後から帰ってきたお父さんもものすごく心配して、大変だった。


落ち着いた頃、自分のベッドに入り森川くんと別れた時の事を思い出していた。

彼の後ろ姿と言葉を聞いて、自分でもよく分からない気持ちだが、これで終わりにしたくないと思った。それに私は、不器用だけど優しい彼に興味を持ってしまったのだから…

「だから…それでも」

永遠は、その夜小さな決意をしたのだった。

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