はち

「九重、上なんて私が黙らせれば良いわ。なんたって私、幹部だもの。まあまあ偉い人だもの。それでも無理なら力ずくで黙らせるわ。あの場所で今最強なのは私だから大丈夫。」

「しかし……それでは春子殿の身に危険が及ぶのでは……上からの反感を買って……」


 九重、僕を解剖したいとか言う怖い人だけど、春子さんが大事なのはよーく分かった。すごく心配そうな顔だもん。でも春子さんは意見を曲げる気は無さそう。さっきまでよりも真剣な表情になった。


「九重、私はこの機会を逃したくないの。分かる? テディーと関わればモノの怪を、いえ、これから怒り狂ってしまうだろう物達の助けになると思わない? せっかく珍しいモノの怪が現れてくれたんだもの。少しくらい利用させてもらわないとね?」


「その利用というのが、ほとんど利用とは言わない程度のものなのでは?」

「それに私、テディーがこれからどう動きたいか、興味があるわ。だからあまり拘束したくはない。」

「それは……まあ……」

「ね、そういうことで良いでしょ? ……はい、決まり!」


 パチン、と春子さんは手を叩いて僕の方を向いた。


「ということでテディー、まずは私の家に来ない?」

「いいよ!」


 僕が了承すると、春子さんは僕を抱き上げる。すると、春子さんは驚いたように目を見開いた。


「あらテディー、あなたなかなか良い毛並みね。」

「うふふ、僕のご主人様、瞳ちゃんがよくお手入れしてくれたんだ!」

「そうだったのね。……テディーのお話、もっと聞かせて頂戴。」

「うん!」






 それから僕は春子さんのお家にお邪魔して、お話をたくさんした。


 僕が生まれた時のこと、お店に並んでいたこと、瞳ちゃんが買ってくれたこと、瞳ちゃんが僕を連れてたくさんの景色を見せてくれたこと、瞳ちゃんの笑顔が好きだったこと、瞳ちゃんが……ひ、瞳ちゃんが……



 春子さんとお話していくと、頭が整理されていくような気持ちになった。そして瞳ちゃんとの楽しかった思い出も鮮明に思い出して、悲しい気持ちにもなって……


 ああ、涙がまた溢れ出してきた。瞳ちゃんは僕を置いて行っちゃったんだって思ったら……


「そうなのね。テディーは瞳さんが大好きで、だからこそもう会えないと考えて悲しくなった。そっかそっかぁ……」


 春子さんは僕の頭を撫でてくれた。その手が、声が、とても温かくて、僕はもっと泣いちゃった。

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