第25話 屋上にて
米倉と一緒に行動していた数人の女子達が長閑の机を取り囲んだ。
「屋上……ついておいでよ」
(やっぱりか……まぁ予想通りって感じかな?)
静かに立ち上がった長閑は、数人の女子の後をついて教室を出て行く。
教室のドアをくぐるまでの間、クラスメイトのヒソヒソ声が聴こえてくる。
まるで面白いものを見物するかのように、何かが起こる事を期待している多くの視線に晒されながらの道のり。
しかし長閑には大したことではなかった。何度か経験してきたこと。それに、いつもこの数分後には立場が逆転することになっていたからだった。
屋上のドアの前には二人の男子生徒が座っていた。生徒のネクタイの色は赤。
(こいつら三年だよな?)
「おーっす。言われた通り、誰も入れないようにしておいたからな」
一人の三年男子が立ち上がり、階段を降りながら軽い調子で言った。
「
長閑を連れ出した数人の女子の中の一人の女子が少し苛立った様子で言った。
「え? いやぁわかんねぇけど……屋上には居ないぞ」
「ちっ! 米の奴……何様だよ」
苛立ちを更に増幅させて舌打ちをする女子は、二人の三年男子を押し退けて屋上のドアノブを捻った。
「さぁ、こっち来て」
長閑の方を見もせずに女子はドアを開けて言った。
屋上に出ると既に数人の生徒達が居て、すぐさまこれがお決まりの陣形だと言わんばかりにターゲットである長閑を取り囲んだ。
「ねぇ、米が居ないんだけどいいの?」
「いいんじゃね? だっていつもそうじゃん?」
「だって米が言い出したんだよね?」
と、お互いの顔色を伺い、何かの責任を押し付け合うように口々に言い合う生徒達を見ていた長閑だったが、
「何? これってもしかして〝いじめ〟なのかな?」
長閑はあえて煽るような調子で言った。
すると、
「もしかしてってなんだよ。お前、自分がどういう状況かわかってんの?」
後ろに立っていた女子が長閑のおさげ髪を掴み、グイッと引きながら言った。
「わかってるし、あんた達もこれからどうなるかわかってんの?」
髪を引っ張られた状態に逆らわずに首だけ捻って後ろを見た長閑は、眼光鋭く髪を引く女子を睨んだ。
ーーーーーーー
キーンコーンカーンコーン。お昼休憩のチャイムが、寝転びながら青空を見上げる一人の男子生徒の背中を震わせていた。
「ふあぁあ! よう寝たなぁ。もう昼飯なんや?」
彼の定位置である屋上の入り口の屋根。本来、立ち入り禁止であるその場所は彼の休憩場所だった。
「うーん、今日はええ天気やし、もうこのままここでサボろうかなぁ」
そうやってしばらくボーッと空を見上げていた時だった。
数人の生徒達が屋上に現れた。
「ここで?」
「うん……しかたないじゃん」
生徒達は何かを相談し始めた。空を見上げる男子は微動だにせず、耳だけそばだたせていた。
ガチャっと屋上の出入り口のドアが開いた。すると、更に数人の気配がし、それを皮切りに何かが始まった。
数人の気配と同時に身を起こした男子生徒は少し興味をそそられその様子を上から伺っていた。
屋上に現れた数人の生徒達は、それぞれ手に箒やバットなどを持っている。
「あれは……二年の奴らやでな? あんなもん持ってきてなんか始めるんか?」
一見、休憩時間の間に何かしら楽しむために集まったようにも見えるが、何か穏やかでない雰囲気が伝わってくる。
その様子をしばらく観察していた時だった、
ガチャ。屋上のドアが開く音が真下から響いてきた。
そして更に数名の二年生女子生徒が屋上に現れた。
「ほら! 早く屋上に出なよ!」
おさげ髪の女子生徒が、背中を小突かれながら屋上の中央へと押し出された。
これから処刑が始まるかのような殺伐とした状況を目の当たりにした男子生徒は、目を細めて鼻を鳴らした。
ーーーーーーー
強制的に屋上の中央へ躍り出さされた長閑は、姿勢を低く構えた。
「いじめられっ子の朝比奈さんが生意気だと聞いたんで!」
そう言いながら背後にいた男子が長閑の背中目掛けて前足を突き出してきた。
長閑は
すると前足を掴まれたまま後ろに下がられた男子は、足を大きく開いて屋上の床にうつ伏せのまま倒れ込んだ。
「いつつつ……」
倒れ込んだ男子は、両太ももの内側を押さえてうずくまっている。
「お前! ふざけんな!」
すぐ横に居た男子が叫びながら拳を握りしめ長閑に殴りかかった。
真っ直ぐに飛んでくる右ストレートを首だけ傾けてかわし、右腕を両手で掴んだ長閑は身体を捻って男子を床に叩きつけた。
「おお! 一本背負い! 彼女やるやん」
上から見守る男子生徒が興奮気味に呟いた。
周囲の生徒達は無様に撃沈した二人の男子を暫く傍観して固まっていた。
だが数秒間の沈黙後、バットを持ったこの中で一際図体の大きな生徒が長閑の前に立ちはだかり、鼻先に凶器を突きつけた。
「朝比奈タエって、ただのいじめられっ子じゃねぇの? これどういうことなんだ?」
(デカいなコイツ……で、バット使うのか?)
長閑の表情に一瞬焦りが浮かんだ。
その刹那、
「おい! 女子相手に大人数、しかもお前みたいなデカい奴がバットでやんのか? お前アホなん? プライドも無いんか?」
長閑の目の前に降ってくるように急に現れた男子生徒が人差し指をバットな男子に向けてそう言った。
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