第24話 校内 一年生の教室へ
次の授業が始まった時、取巻きの女子達は席に着いていた。長閑は振り返って教室を見回し、見覚えのある何人かと目線が合う。
全員がバツの悪そうな表情のまま俯き、下唇を噛んだまま机に視線を固定している。
しかしリーダー格の女子〈長閑の頬を叩いた〉の姿だけが見当たらなかった。
(うーん……軽く腕を返してそのまま床に倒しただけだったけど、怪我してなければいいんだけどな……てかまぁそれでも自業自得ってことで)
と、長閑はペンを手に取り、授業に集中する為に気合いを入れ直した。
結局、リーダー格の女子の行方はわからないまま、授業間の休憩の時間になった。
長閑は鞄に入れていた赤い袋の弁当を確認して「舞子、一年一組……かぁ」と小さく呟いた。
弁当を持ったまま二人の教室のある二階へと向かった。その道中の階段で数人の生徒とすれ違い、微妙な制服の違いに気がついた。
男子のネクタイの色が〝赤、オレンジ、緑〟と違っていた。
「ふーむ……これは学年の色分けなんだろうか? 俺が着るタエちゃんのスカーフ〈女子はスカーフ〉の色がオレンジか……てことはこの色が二年?」
長閑が一年生の教室が並ぶ廊下に差し掛かると、すれ違う学生達のネクタイとスカーフの色は緑色ばかりになった。
「ふむ。一年が緑で、三年が赤なのな」
独り言をこぼしながら長閑は、まず五組へと足を運んだ。
(龍馬は……っと)
五組の教室の中を探せど探せど龍馬は見つからない。
「あいつ……弁当ちゃんと食べるんだろなぁ」
そんな風に龍馬を探している時だった。
「あれ? あんたこんなところで何してるの?」
そう言いながらこちらを見る、舞子の姿がそこにあった。
「あ、舞子」
名前を呼ばれた舞子の表情は、訝しげではあるが、どこかソワソワした雰囲気があった。
「あ、そ、それってウチの弁当ぉ? 持って来てくれたんだ?」
「あ、うん。片桐さんがせっかく作ってくれたんで勿体無いと思って……あ!」
舞子に弁当を手渡そうとして、長閑は後ろの人影に気がついた。
「えっと……よ、米倉さ、ん?」
長閑が名前を呟くと、舞子の背後の人影は何も言わずにその場を立ち去った。
(うーん、やっぱりちょっとやり過ぎたかな……)
さっきトイレで起こった出来事を考えながら頭を掻いていると、
「あんた、米さんと何かあったの?」
「どうして?」
「だって、米さんあんたのことやたら質問してくるし」
舞子は溜め息混じりで言った。
「質問って?」
「なんか習い事を始めたのかとか、鍛えてるのかとか。ウチが知ってるわけないし、面倒臭いから知りませんって答えたけど、どういうこと?」
舞子は髪をかきあげながら、うんざりとした顔で言った。
「うーん、別に何も……」
さすがにトイレでのことは言えないなぁっと長閑は思っていた。
「あんたって米さん達にさ……いじめ」
キーンコーンカーンコーン。次の授業の予鈴が鳴った。
「ま、まぁいいや。それ貰っとく」
舞子は言いながら長閑が手に持つ弁当袋を引ったくると、そのまま自分の教室へとそそくさと入って行った。
「いやまぁ……目的は弁当を渡すことだったんだけど?」
長閑はイヤな予感がしていた。と言うのも、米倉のような所謂〝いじめっ子〟の次にとる行動が何なのか察しがついていたからだった。
そして長閑が予感していたそれが起こったのは、お昼休みの時間だった。
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