第2話 オンラインゲーム プロローグ2
[オンラインゲーム2]
(レモン)【ぐ、ダメみたい……あとお願い】
(他プレイヤー)【おっけいおっけい! 無理しなでいいからねレモンちゃん】
(レモン)【うん、ぁりがトン!】
この文字はゲーム内のチャットと呼ばれる文字欄に表示されている文字で、キャラクターを操る人間同士がコミュニケーションを取るためのシステムとなっている。表示され流れる文字は自分のキャラクターとゲーム内のキャラクターが〈何処か遠くの人間が操っている〉キーボードを叩いて生み出した文字だけの会話。
メールなどに似ているが時間差が殆ど無いのが特徴で、まるで向かい合って話している感覚で言葉を返しあえるのだ。
(レモン)【じゃあたしが回復魔法を使うから、側に居てね】
(他プレイヤー)【うん! レモンちゃんサンキュー】
俺のキャラクター〝レモン〟。この系統のゲーム経験者なら御察しの通りの可愛い系の名称をつけたキャラ、性別は女性キャラである。そして現実の俺は男である。そう俺はネットオカマ、通称〝ネカマ〟なのである。
(レモン)【あたしさぁ、最近、体重が気になっちゃっててぇ】
何気なくキーボードで打ち込む女性言葉。人それぞれ違いはあるものの、自身が思い描いた女子や女性アニメキャラ、そしてそのゲームキャラに転生しているかのような感覚でもってプレイする。
多少の罪悪感を纏いつつ、中毒者のように女性になりきって演技する。そこでの自分は違う性別の自分というカルマを自覚しながらキーボードのキーを叩くことを日々楽しんで行く。
ゲーム内の友達〈ゲームによってはフレンドなどの呼び名〉であるキャラクターの大半は男性で、俺のキャラクターの周りも大体そうである。
そんな中で女性としてプレイするからには男だとバレてはいけないし、素性も知られてはいけない。
プライベートなことは一切の空想話として用意しておかなければならない。とは言え、現実での自身の環境に寄せた情報も、ある一定のリアリティー向上の為に話すことにしている。
(レモン)【あたしの会社に、うっざい上司が居てさ……休憩中も仕事のことを考えろみたいな? ヤバくて泣ける】
(他プレイヤー)【そんな古臭い考え方する老害が居ると、会社辞めたくなるよね】
こんな他愛も無い会話も現実の俺の生活の一部分なのだが、一部をデフォルメし〝俺をあたし〟に入れ替えるのは当然として、打ち込んだ内容に沿って、さも本当に悩んでいるかのように、又は本当に悩んで話す。
そうすることでゲーム内フレンドの一部や男子プレイヤーは優しい受け答えで返してくれる。おおいに〝かまってくれる〟のだ。
なので、俺の精神的悪玉浄化ツールとしても超一流なアイテムであり、今の俺にとって大袈裟に言えば、セカンドライフとも言えるものなのだ。
既に生活の一部と化している俺のネカマライフを邪魔する輩もいる。
それは現実の人間達である自身の家族とその環境。
だがしかし、それよりも厄介なのはゲーム内に存在する邪魔者なのだ。
まずは自分の性別を疑っている男子プレイヤー達の存在だ。だが彼らは比較的イージーで、時間経過とともに性別はどうでもよくなるのか、根本であるゲーム優先となり、割と干渉してこないこともある。
ただ慣れてくるだけなのかもしれないが、一旦、女子だと信じ込ませることに成功すると味方になってくれることもある。それは好かれ、愛されると言うこと。さもすれば付きまとわれ、面倒くさい存在にもなり得るのも事実なのだが……。
次に厄介なのは本物の女子が操るキャラクターである。彼女らは俺達ネカマからすれば、位置づけは〝先輩〟的なもので、油断すれば一気に存在意義をなくされその地位も持っていかれてしまう。その上、彼女らパイセンの会話の渦に巻き込まれでもすれば、余程の経験と準備をしていなければ本物の自分をさらけ出さされてしまう素にもなり兼ねない為、距離を置くのが得策である。
そして、一番厄介な存在……それが〝ライバルネカマ〟である。奴らの一部は害は無い存在だが、一定層のネカマは、関わるキャラクターを全てライバル視する、非常に厄介な存在なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます