第7話 クラスメイトたちとの距離
桜浜女子学園高校は、お嬢様学校として有名である。
もっとも、お嬢様など今は昔の話で、進学クラス以外の偏差値も並であり、そこに通う生徒のほとんどは一般的な女子高校生であった。
そのため、それだけに異世界からの留学生ヴィヴィ=ダレンドールという少女は、とてつもなく目立った。
なにせ地球全体で数えても異世界からの留学生は約五百人で、日本には約二十人しかいないのだ。
しかも異世界人と地球人の外見に差が少ないならともかく、ヴィヴィは異様。
頭には鬼のような異形の角を生やし、顔には魔術的な入れ墨が彫られ、歯は犬歯がよく発達し、目は赤々と爛々とした光が見えた。
無論、余計な混乱を避けるためにもヴィヴィの正体が魔王の娘だということは他の生徒たちには秘匿されているが、ヴィヴィの異様さを察知できない者など一人もいない。
誰も彼もがヴィヴィを認識し、避けていた。
大いなる恐れを感じて――。
そのために、その日、部活の朝練で学校に早く来た一人の女子生徒も、自分の教室にヴィヴィの姿を見て取ると、すぐさま廊下で足を止めた。
ヴィヴィと二人っきりになっては何をされるか分からないからだ。
女子生徒は気づかれないうちに引き返そうかと思った。
ただ同時に女子生徒は、ヴィヴィの横にメリア=エミルの姿も見て取った。
メリアも、ヴィヴィと同じく異世界からの留学生で、空色の髪が目立つものの、物腰柔らかで、まさにこの学校に通うべきお嬢様といった美人であった。
ヴィヴィとメリアの間に、どんな接点があるのかなんて女子生徒は知らない。
しかしメリアがいるのならヴィヴィと二人っきりではない。
女子生徒は、いくらか安心して、できるだけ笑顔を作って教室に入ろうかと思った。
だが、
「ぁあっ――ん――」
「ヴィヴィさん――、やっぱりここが弱いんですね――」
そんな声が聞こえて、女子生徒は笑顔を作りかけた状態で硬直した。
おそらく、最初の声はおそらくヴィヴィのもので、次の声はメリアのもの。
けれどそのヴィヴィの声は今まで女子生徒が聞いたことのないような甘ったるく甲高い声で、メリアの声は恐ろしいほどに艶っぽい声であった。
そして女子生徒は、瞬時に状況を把握すると、物音を立てずに――
朝練をサボって、教室内の盗聴を開始した。
また、どういうわけか女子生徒の口からは、パブロフの犬のように涎が滴りだしていた。
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