第4話 実はまんざらでもなかったり

「あとは二の腕などお触りになられますか? 二の腕は胸と同じ柔らかさらしいですよ?」


 メリアは楽しそうに語った。


 ただ、さっきは筋肉の話をしていたはずだが、いつのまにか話題が変わっていた。


 また、メリアはヴィヴィに触ることを促していながら、自分で自分の二の腕と胸を触り比べていた。


「……うぅん……、私の場合は腕のほうに筋肉があって、腕には張りが、胸は柔らかさが強いですね」


 メリアはそんな俗なことを言いながら、その顔は実に実に淑やかな微笑みであった。


 しかしヴィヴィはそんな笑みを見ていると「はぁぁ……」と深い溜め息をつき、憂鬱さも深くなるばかりだった。


「あら? ヴィヴィさん、ご気分が優れませんか?」


「……別に。てめぇと話してると疲れるって思っただけだよ」


 ヴィヴィは、相変わらず淑やかなメリアの問いに、また溜め息をまじえて返答した。


 だがするとメリアは、


「とってもとっても楽しいってことですか?」


 かなり好意的解釈をしてきた。


 ヴィヴィはまた再びため息まじりに「そういうところが疲れるんだよ」と言った。


 しかしメリアは微笑んだままで、


「あ、お疲れでしたら、私の胸でよければお貸ししますよ?」


「借りなくていい。借りたら余計疲れそうだ」


「遠慮なさらなくていいですよ?」


「してねぇ。っていうか、どうせてめぇの言う胸を貸すってのは、抱きしめるとかそういうことじゃねえんだろ」


 ヴィヴィは、もはや十秒だけでいいからメリアを黙らせたく、そこで口調を荒くした。


 だが、


「え? 胸を貸すって、抱きしめてあげる以外に何かございました?」


 メリアは、大げさに首を傾げて見せた。


「ヴィヴィさんはどういうつもりだったんですか?」


「……そろそろ真面目な話しようぜ」


「あら。お話を逸らすということは――?」


 メリアの微笑みは、どことなくニマニマと、とても淑やかとは言えないものになっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る