想いを伝えたくて

『なあちー。恋ってのに引き下がるって言葉はない。あるのは成就か当たって砕けるかの2つだ。友達の為に身を引くってのは客観的に聞けば美談だが、本当は一番辛い選択だ。後に残るのは後悔だけだ。……私みたいにな』


 母の姉である私の伯母の優香さんは幼い私に口癖のように話をしてくれた。

 優香さんには大学時代に好きな男性がいたらしいけど、その男性と自分の友人が両想いだと気づき、告白せずに身を引いたらしい。

 その事を10年以上経っても忘れられずに今でも後悔しているらしい。

 もし、あの時、振られると分かっていても告白していれば何かが変われたのかもしれない。

 自分の想いを封印した報いが今でも後悔という鎖で縛られている。


 だから優香さんは、姪である私に自分の様な後悔をして欲しくないと性格が形成される幼少期の頃から耳にタコができる程に言って、私もその言葉が身に染みた。

 だからこそ、友人の光ちゃんから太陽君との恋を成就する応援を頼まれた時、私は頷けなかった。


————千絵も太陽君の事が好き。だから、ごめんね光ちゃん。


 自分の想いに嘘は吐けなかった私は……太陽君に告白する事を決めたんだ。

 それが……あの夕焼けの公園での約束だよ。太陽君。


 光ちゃんに恋の応援を頼まれた日から2か月、私はずっと苦悶した。

 自分の恋を封印して友達の恋を応援するか。それとも、自分の恋の為に頑張るか。

 幼い私は後者を選んだ。小さい頃から伯母の失恋話を聞かされていた私は失恋を恐れた。

 いや、違うね。自分の想いを伝えないままに失恋するのを恐れた。だから、私は決心したんだ。


 私の想いを、太陽君好きな人に伝える、と。


 別に作戦が決った訳でもなかった。決行日とかも全く頭になかった。

 だけど……いつも3人で遊んでいたからタイミングが無くて、言い出せなかった。

 けど、本屋で本を物色していた時に偶然、漫画を買いに来た太陽君を発見して、私は尾行したんだ。

 そして、公園に入って行く太陽君を見て、私は今日告白しようと決めた。

 偶然を装って太陽君に近づいて、強引に遊びに誘った。初めて会った時とは立場逆転して。

 

 漫画の続きが気になる太陽君は渋々だけど私の遊びに乗ってくれたよね。

 あの時は嬉しかった。いや、ずっと嬉しかった。

 だってそうでしょ? 好きな人と遊ぶのはいつもドキドキで嬉しい。毎日私は嬉しかった。

 けど、あの日のドキドキは違った。緊張と不安。自分の想いをどう受け取ってくれるのだろうか。

 正直頭の中真っ白になったよ。元々プランとか無かったから、何て言えばいいのか分からなくて。

 自分でも何言ってるんだろうって思った。けど……私の想いを、願いを、将来を君に伝えた。


「『そんな幸せな家庭を、太陽君と一緒に作りたい』」


 誰もが一度はあると思うよ。好きな人との幸せな未来を。

 平凡な日常だけど一緒にいられて。たまに喧嘩して、そして仲直りして、一緒に笑って、泣いて、支え合って。子供が出来たら名前をどうするのか相談して、子供の育て方で喧嘩して、けど、子供ががどう成長しようとも一緒に見守って。

 子供が巣立った後はおじいちゃん、おばあちゃんになっても一緒で、どんどん歳をとって……私ね。もし死ぬなら後の方が良いと思ってるんだ。だってそうだよ。自分の死に顔なんて見られたくない。私の死で誰かに泣いて欲しくない……それが好きな人なら猶更。

 

 そんな未来の一歩目として私は太陽君に告白した。って、思い返せばあれって告白なのかって疑問だよね。けど、夕焼け空にも負けないぐらいに真っ赤っかになった太陽君は可愛かったな。

 え、うるさい? 忘れろ? いやーだよ。絶対に一生覚えてやるから。


 ……けど、私が自分の想いを伝えたけど、太陽君は……頷いてはくれなかったね。

 はぐらかすみたいに話を逸らして、けど……根負けしてか最後は大人になってもお互いにフリーだったら付き合うって話になって、私的にはかなり不服だったけど、それでも私は嬉しかった。

 これで少しでも私の事を友達としてじゃなくて、1人の異性として意識してくれるならそれで良いって。そうなれば私は光ちゃんよりも太陽君に近づけるって、そう思ってた……けど。


 …………………………先に謝っとくよ。ごめんね、太陽君。

 何を謝ってるんだって? そんなの決ってるよ。

 昔の記憶が戻ったんなら、思い出したんじゃないかな……この後のことを。


 太陽君は—————交通事故に遭ったんだよ。


『あ、猫ちゃんがいる。おーい猫ちゃん。千絵達と遊ぼう』


 私は太陽君に告白した事への気恥ずかしさから偶然通りかかった猫を追いかけた。

 私は風邪を引いたみたいに額が熱くて、他に何も考えられなかった。

 

『待てー猫ちゃん待てー』


 私は逃げる猫を追いかけて、公園から車道に出てしまった。その時に気づいた。

 自分に迫る車の存在に。ライトが私を包みこんだと同時だった。

 私は誰かに押された。私を押したのは……太陽君だった。


 太陽に強く押された私は身体を強く打つだけで済んだ……けど、太陽君は。


「う………うそ……」


 私よりも前方に赤く染まって倒れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る