友達として

 太陽君と光ちゃんと知り合って、いつも学校の無い日は家に引き篭もっていた私も遊ぶためと家を出るようになった。その事で驚きと喜びのお母さんたちの顔は忘れられない。 

 相当嬉しかったのだろうね。私に遊ぶ友達が出来て。


 ……けど、最初の頃は苦労したよ。


 遊ぶと言っても、メンバーは私と太陽君と光ちゃんの3人が主だった。

 家の距離の都合もあったんだけど、学校では兎も角、殆どの知り合いは家で遊ぶゲームが主流だったから、外で遊びたい盛りの太陽君と光ちゃんは敬遠されて、殆ど2人で遊ぶことが多かったらしい。

 そして新しく私も加わったんだけど……光ちゃんからの邪険視は凄かったよ。

 当時はただ私の事が気に入らなくて怖い態度をしているんだと思ってたけど、今なら分かる。

 多分、当時の光ちゃんは嫉妬していたんだと思う。

 いつもは2人で遊んでいる所に不純物の私が混じったのだからね。

 

 まあ、それでもなんだかんだで優しい光ちゃんは太陽君に絆されると諦めて私を仲間に入れてくれた。

 そして3人で遊ぶことが多くなって、山に行って虫を捕まえたり、川に行ってお魚を捕えたり、公園で日が沈むまで走り回ったのは良い思い出だよ。

 いつも1人の時間を過ごしていた私にとって、その時間は本当に驚きの連続だったよ。

 楽しかった。本当に楽しかった。けど、そんな中にあの事件が起きたよね……。


 当時の光ちゃんは言葉使いも恰好も男勝りで、悪口として『男女のヒカリ君』なんて呼ばれたりしたよね。

 なんで光ちゃんは男の子の恰好をしていたのかは分からないけど、本人はその悪口に対して何も気に止めてなかった様子だけど。当時喧嘩っ早かった光ちゃんは色々な男子と喧嘩をしたり、言い争いをしたりして、女の子なのにそれらが強くていつも返り討ちにしていた事が、男子の癪に障ったからか。

 揶揄いは加速して、いつしかそれはイジメに発展してしまった。

  

 私たちとは違うクラスだった光ちゃんは、光ちゃんのクラス中の男子から標的にされて、露骨な嫌がらせや陰口を言われたり、挙句の果てには……集団で光ちゃんを暴力リンチにしたこともあった。

 それをいつも助けたのが……太陽君だったね。

 光ちゃんを虐める男子を太陽君は許さなかった。その事で男子から太陽君は腫物を触る様な扱いをされたけど、太陽君は光ちゃんの騎士ナイトみたいに光ちゃんを守った。

 

 そして、太陽君が尽力したからか、光ちゃんへの虐めはいつの日からか無くなった後だった。

 男子の恰好をしていた光ちゃんが、女の子の恰好をし始めたのが。

 同級生の全員が驚愕したよね。正直、私はあまり似合ってないと思った。

 ベリーショートの短髪と野原を駆け回る様なヤンチャなショートパンツと半袖を昨日まで着ていたのだからスカートを履いた光ちゃんは違和感が半端じゃなかったよ。

 けど、そんな恰好でも太陽君は変わらない笑顔で「似合ってるじゃねえか」って言ってたよね。

 あの頃の太陽君の方が女心を分かっていたのかな? そう思わない? え、知らない? そう。

 

 短髪だった光ちゃんはその頃から髪を伸ばし始めて、次第に女の子になっていった。

 それでも変わらずに私たちは一緒に遊んだ。誰かの背格好が変わっても私たちの関係は変わらない。

 そう……思っていた。

 けど、私は気付いちゃったんだよね。光ちゃんの太陽君に向ける違う視線に。

 今までは、友達としての信頼の視線だと思っていたけど、違った。

 光ちゃんの心に芽生えたのだろう。太陽君を1人の男性として好きだという恋の芽が。


 それに気づいて間も無くだった。

 私が薄々勘付いていた不安が的中したのだ。

 

「ねえ千絵ちゃん。お……わ、私ね。太陽の事が好きみたい」


 友達としての関係が深まっていた事で、この時には互いに『光ちゃん』と『千絵ちゃん』と呼び合う仲になった私たちだが、光ちゃんからの告白は金槌で叩かれた様な衝撃だった。一瞬、息をするのも忘れるぐらいに固まって。

 

「そ、そう……なんだ」


 胸がズキズキ痛かった。

 この前まで男の子みたいな光ちゃんだったけど、髪を伸ばして女性の恰好をし始めてから光ちゃんが魅力的な女の子なんだって気づかされた。

 現に今は学校でも屈指の美少女になってるけど、あの時の私はその事が予感できた。

 そんな子に好きになられたら……私が男子なら意識しちゃうよ。

 その好意を向けられる人が太陽君私も好きな人なら不安で一杯だった。


「それを……千絵に言ってどうするの……?」


 私は光ちゃんの告白の真意を尋ねた。

 人に好きな人を言うのには多少の理由がある事を優香伯母さんの話やドラマで知っていたから。


「どう……ってわけじゃないんだけど。千絵ちゃんに応援して欲しいって思ってさ」


「おう……えん?」


「そう! 私が太陽と上手く行くように、応援して欲しんだ! 千絵ちゃんが応援してくれるなら、百人力だよ!」


 何処からその私への絶大な信頼が生まれるのか分からないけど、私は気持ちが揺らいでしまった。

 このまま光ちゃんと友達を続けられるのだろうか、って。

 私だって太陽君の事が好きだったから。恋敵の人と私はこの先友達でいられるのだろうか。

 光ちゃんは私にとって数少ない友達。大切で断ち切りたくない縁。

 だからこそ、友達の為に私は自分の気持ちを押さえて応援すればいいのだろうけど……あの時の私は———————


「(ごめん光ちゃん……。千絵、その応援……出来ないよ!)」


 そして、あの約束の日へと進むんだよね。

 

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