光くん

「遅いぞ太陽! 昼休みが終わっちまうだろうが!」


「わるい光。友達誘っておくれちまった!」


 私は太陽君に手を引かれながらに校庭に辿り着くと、校庭の隅で陣地を作って待っていた集団の中心に立つ男の子に太陽君は怒られた。

 太陽君は平謝りするが、カンカンに怒っている男の子は機嫌が悪い顔だったけど、太陽君の言った単語に反応する。


「友達? って、誰だ? そいつの事か?」


 男の子は太陽君の後ろに隠れている私に指を差して言った。

 太陽君は私を前に強引に出すと、おう、と頷き。


「こいつは高見沢千絵って言うんだ。今日から友達になった。みんな宜しくな」


 あ?と意味を飲み込めない男の子。

 そして男の子は私の方に大股で近づくと、見定めをするように睨み。


「お前、俺と別のクラスの奴だな? 太陽とはどんな関係だ?」


「ひぃいッ!」


 本当に怖かった。初対面の相手に凄い目つきで睨まれたのだから。

 助け舟と太陽君が私と男の子の間に割って入り。


「おい光。あんまりイジメるなよ怖がってるだろうが」


 もう大体察しているだろうし、太陽君も何度も名前を呼んでいるけど。

 この男の子ってのは光ちゃんのこと。

 昔の光ちゃんは見た目も言葉づかいも男勝りで、初めて会った時は男の子かと思っていたんだ。

 この半年後ぐらいの太陽君と光ちゃんの合同家族旅行に同席させてもらった時のお風呂の時に初めて光ちゃんが女の子だってことを知ったんだよね……。

 違うクラスだったし、関わり合いなんて当たり前だけど皆無だったから仕方ないよね。

 けど、これから数年後には学校で大人気の美少女に様変わりしてるんだから人生って奥が深いよね。


「イジメてねえよ。てか、太陽はこいつとはどんな関係なんだよ?」


 私を庇った事が気に入らない様子の光君(当時の呼び名)は太陽君に語気強く尋ねるが太陽君はキョトンとした表情でさらっと答える。


「友達だ。さっきも言っただろ?」


「…………本当だな」


「本当だ。嘘吐くわけがないだろ」


「好き……とかじゃ、ないんだよな……?」


「はあ? なに言ってるんだ光。お前馬鹿か?」


「馬鹿って言うな! 馬鹿って言った方が馬鹿なんだからな!」


 何故か取っ組み合いの喧嘩を始める2人。他の生徒達が仲裁に入る。

 他の人の会話を聞いた感じだと、2人はいつもこんな感じらしくて喧嘩は日常茶飯事だとか……今では考えられないよね……ってそうでもないかな。


「このままだと昼休みが終わっちまう! かなりムカついたから太陽! お前をドッチボールでボコボコにしてやる!」


「それはこっちのセリフだ! 俺がお前をボコボコにしてやるよ! 後で泣きべそかいても知らないからな光!」


 互いに額を衝突させて睨みあう2人。私、変な人達と関わってしまったのかなって不安に思ったよ。

 光ちゃんの場合は第一印象は怖い人だったから、今なら笑える事だけど、この人とは友達にはなれないと思った。別に嫌って意味じゃなくて怖いって意味で。

 元凶の私を蚊帳の外においてヒートアップする2人。

 遊ぶ種目はボールがあるからドッチボールに決まって、チーム分けが始まったんだけど。

 ……やっぱり、子供は勝ちに拘るから上手い人からチームに引き入れられて、初めて参加の私は必然的に残ってしまって。


「よし千絵。お前は俺のチームだ。頑張ろうぜ」


「う……うん。けどごめんね。私……下手クソだから……」


「気にするな気にするな。その分俺が相手にボールをぶつければいいだけだから、さっ!」


 突然に太陽君の後頭部にボールが当たり、太陽君は痛ぅ……と蹲ると、その犯人にがなる。


「テメェ光! まだ始まってないのに何投げてるんだよ!」


 背後だったのに犯人が分かっているかの様に、太陽君は光君に怒る。

 光君も全く隠そうともせず、悪びれる素振りも無く言う。


「なんかムカついた」


「んだとゴラッ!」


 又しても喧嘩を始めようとする2人。

 当時の2人は異性と言うよりも喧嘩友達みたいな間柄にも思えた。

 喧嘩は周りの仲裁で沈静化して、ドッチボールは開始されたんだけど。

 意外や意外に、私は太陽君と共に最後まで残っちゃったんだよね。

 怖くて色々な事から逃げていたからそれが役だったのか、それとも相手側が当てるのを遠慮していたのかは分からないけど、相手陣地は光君のみで、私たちは太陽君と私の2人。

 

 昔から運動神経が良かった光ちゃんの球は速くて、頑張って逃げていたけど結局はボールをぶつけられて場外に行くんだけど。


「ごめんね古坂くん……やっぱり私へたで……」


「気にするなよ千絵。ここまで残ったんだからお前はスゲェよ。俺がお前のかたきを討ってやるからな」


 ニシシッと笑う太陽君の笑顔に当時の私は顔を熱くしたな。本当に輝いていて憧れてしまったんだよね。

 落ち込む私を励ます最中にボールは私に当たって反発したボールはコロコロと相手陣地に転がり。


「——————ふんッ!」


「ぐへっ!」


 光君からの全力投球のボールは太陽君の顔面に直撃する。

 顔を押さえて蹲る太陽君は涙目でボールをぶつけた光君を睨み。


「おい光! 痛ぇじゃねえか! 顔面はセーフなのにお前わざと顔に当てただろ!」


「うるさい馬鹿馬鹿馬鹿ッ!」


「お前さっき馬鹿って言った方が馬鹿って言ってただろうが馬鹿!」


「うるさい馬鹿! 女にカッコつけやがってカッコつけマンが! 俺がいるのによ!」


「何言ってるんだお前! お返しだ!」


「そんなの当たるか!」


 ギャーギャーと子供だから当たり前だけど、子供の様な言い争いをしながらボールを投げては取り、取っては投げてのドッチボールからキャッチボールにいつの間にか変わっていた。

 結局、勝負は昼休みの終了によって引き分けに終わり、太陽君と光君は喧嘩のまま終わってしまった。

 私の所為での喧嘩だから私は負い目を感じていたけど……次の日にはケロッと仲直りしていたから拍子抜けだったな。

 

 太陽君と出会い、光ちゃんと出会い、私の人生の起点はその日だった。

 太陽君と友達になった縁もあって、私は光ちゃんとも遊ぶようになったんだよね。

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