夢の後
太陽は勢いよく上体を上げて起床する。
寝汗でびっしょりの身体を無事を確認する様に手を当てる。
当たり前だがどこにも外傷は無く、先程の光景は夢だったのだと頭で理解する。
そして汗で濡れる額を摩り安堵する。
「夢……だよな、うん、あれは夢だ夢。って言っても……あれは本当に夢だったのか?」
明晰夢を鮮明に記憶している太陽は先ほどまで自分が見ていた物は本当夢だったのだろうかと疑問に思う。
夢にしては余りにも
「そう言えば昔に俺、死ぬ直前になるぐらいの重傷を負う事故に遭ったんだよな……。もしかして今のが、事故に遭う直前の記憶……。全く覚えてないな」
事故の前後の記憶は衝突の衝撃で曖昧になると言うが、太陽は全く気にも留めなかった。
ただ単に自分の幼いながらの不注意だったのだろうと思っていたが、もし、あの夢が現実なら。
「俺は昔に光を助けて事故に遭った……って、そんな事光は一度も言ってなかったよな……」
もし仮に太陽が命の恩人なら少なからずの恩はあるはず。
なのに、今の今までその事に触れられてこなかったから、先程のはただの太陽の妄想だったのかもしれない。
「夢の事をとやかく言ってても埒が明かないしどうでもいい―――――――かぁ!?」
太陽は壁に掛けられた時計の時刻を見て目を剥く。
時刻は八時を過ぎている。もう少しで朝のSHRが開始する。
「うわわわっ! なんでこんな時間まで! 母さんも起こしてくれてもいいだろうが!」
太陽は遅刻の危機に慌てて制服に着替えてカバンを持って部屋を出る。
下にいた母になんで起こしてくれなかったんだって怒る太陽だったが、「何度も起こしても起きなかったのはそっちでしょ!」と返され、撃沈した太陽は買い置きのパックに入った菓子パンを持って家を出る。
走れば余裕で学校に着く距離だが、生憎太陽は昔の交通事故で脚を負傷しており、その後遺症で過度な全力疾走は無理である。
無理やり走る事も可能だが、後で来るのは痺れと震えと激痛だ。
ジョギング程度の軽めに走る事は可能だが、汗だくで教室に着くのは嫌だと少し早歩きで学校に向かう。
SHR開始の
クラスメイトからの「遅かったな」「ギリギリだったぞ」などの言葉を貰い、自分の席に着く。
太陽は走って無くても出る汗を持参したタオルで拭い、教卓に立つ先生の話を聞く。
「まだGWの余韻が抜けきってない奴らもいるみたいだが、去年にも経験していると思うが、この時期には体育祭及び文化祭の準備をしてもらう」
担任が告げると教室にどよめきが奔る。
学生の大イベントでもある2つ、体育祭と文化祭。
普通であれば1学期のしかもGW終わった時期に決めるのは早すぎるのだが、太陽が通う鹿原高校は夏休み終わった後に間隔を殆ど空けずにこの2つのイベントを執り行う。
夏休みまで約2か月。夏休みは名前の通りに休日に使いたいであろうから、この時期に決めないと体育祭と文化祭は破綻してしまう。
太陽たちは去年の一年の頃に経験しているから驚きはしないが面倒くささがある。
「って事で、まずクラスの中で体育祭係と文化祭係を決めて貰う。誰か自分がやるっていう立候補者はいないか?」
担任の問いに教室は静まり返る。この静寂は否定である。
行事の係などただの雑用係だと言うのは全員知っているために、自ら面倒を受けようなど思うはずもない。
担任も大体予想は付いていたのか、嘆息しながら教壇の下を漁る。
「まあ、大方の予想は付いていたがな。推薦なんて後に亀裂が入りそうだから、決めるならこれしかないな」
担任はそう言って教壇からあらかじめ用意していたのか四角い箱を取り出す。
「こんな事もあろうかと思って用意してて正解だった。この中にクラス全員のそれぞれの名前が書かれた紙が入っている。そこから引いて書いてあった奴が恨みっこ無しの係な?」
確かにくじ引きなら後腐れもなく恨みも少なくても済む。
だが、GWの陸上部の合宿でもくじ引きをした太陽は何処かデジャヴがあった。
引くのは担任らしく、四角い箱の中心に空けられた穴に手を入れ、中でゴソゴソと手探る。
「まず体育祭係だ、と」
先に体育祭係が決るくじが引かれる。
二つ折りのくじを担任は開き、そこに書かれた名前を読む。
「えっと、奥田聡。お前が体育祭係な」
「マジかよッ!?」
クラスメイトの男子奥田聡は自分が選ばれた事でショックで項垂れる。
周りからはドンマイ!と心にもない励ましと笑いが飛び交う。
体育祭係が決った事で、次は文化祭係を決めるくじが行われる。
「えっと次は文化祭係だが……」
担任が最後に引いたくじ。
あれが今後の学校生活を左右すると言っても過言ではない。
係になれば放課後は係の方に時間を費やすから自由時間が削られる。
全員が自分ではありませんようにと祈り、そして―――――
「文化祭係は、古坂太陽、お前に決まりだ」
太陽は自分の運の無さを悲嘆して項垂れる。
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