5章
朧げな記憶
古坂太陽は夢を見ていた。
太陽はこれが夢だと断定できる為、多分明晰夢と呼ばれる夢の類だろう。
錘が付けられた様に深海に沈む行く自分。
腕を振って藻掻こうとしても上がれず、ただ自然に身を任せるのみ。
深海にいるはずなのに不思議と苦しまないのが、これが夢だと自覚できる要素である。
―――――なんて夢を見ているんだ、俺は……。
深層意識を脳が構築したのが夢だと言われるが、太陽は自身の深層意識が理解できない。
横目で底を覗くと、暗い深淵で先が見えない。
夢はどうすれば覚めるのだろうと考えた時、深海の底から気泡が浮かんでくる。
―――――なんだこれは……。
太陽は唯一動く腕を伸ばして、浮かんで来た気泡に指を触れると、気泡は弾けて消える。
ただの何もない気泡かと思われたが、弾けた瞬間に太陽の脳裏にあの光景が思い浮かぶ。
『そ……家庭を……私………太陽と……作りたい』
ノイズ混じりの声に朧げな情景。
夕焼け空を背景に照らされる公園に2人の少年少女。
太陽はこの光景に見覚えがあった。
これは過去の記憶。太陽が幼馴染の渡口光と約束した日。
何故、こんな壊れたテレビの様に映像が乱れているのだろうか。
悩むにつれて、痛みの感じないはずの夢の中なのに頭痛に苛まれる。
まるで頭を金槌で叩かれた様な激痛に、太陽は夕焼けの公園の地面に膝を付ける。
―――――確かに昔の事で曖昧だが、なんでこんなにハッキリしないんだ……。
向き合い立つ幼少期の太陽と光。
だが、あの時の自分の顔はハッキリ映し出されているのに、光の顔だけがぼやけていた。
―――――なんで俺は、この時のことを思い出そうとすると頭が痛くなるんだ……。まるで自分自身が思い出すのを拒むように……。
後に苦しい思いをするが、この時の記憶は代えがたい物だったはず。
なのに、なんで相手の光の顔を記憶に投影出来ないのか、太陽は分からない。
『けど……××はどんなに時間が経っても、太陽の事大好きだよ! 絶対に、絶対にぃ! けど、太陽が言うなら一旦諦めるよ……。けど、もし××達がもう少し大人になって、××が太陽の事が好きだったら、もう一度……告白していいよね……』
朧げな顔の光の問いにこの時の太陽は頷いた。
涙ぐむ彼女の目に思わず心は揺れたが、子供だった太陽は幼さ故に決断できずにそれを保留した。
その後に、太陽と光は指切りげんまんで約束をしたのだが……。
『それじゃあ太陽。いつか、いつか絶対に××は太陽に想いを告げるからね!』
これは約束を交わした後の記憶。
太陽は人に好意を向けられる事に気恥ずかしさを感じながらに「あ、あぁ……」と頷いたが、
『あ、猫ちゃんがいる。おーい猫ちゃん、××達と一緒に遊ぶ?』
光は顔を赤くしている。
多分だが、告白直後の羞恥から一旦逃げる為に意識を偶然通りかかった猫に向けているのだろう。
とことこと猫を追いかける光。
猫は野生の本能からか追いかける光から逃走するが、
『待てー猫ちゃん待てー』
逃げる猫が可愛いのか笑顔で追いかける光は公園の入り口から出ようとする。
その瞬間、適当に光と猫を追いかけていた太陽の表情が一転して険しくなる。
太陽の視界に入った物に、太陽は走りだし。
『××―――――――!』
太陽が光を押した瞬間にライトに包まれ、夕焼けの世界にクラクションが響き渡る。
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