恋のピストルは鳴る

 太陽と別れ、1人街灯が照らす夜道を歩く御影。

 ここは治安がいいのか、それともただ単に人が少ないのか、人と会わずに帰路を歩く。

 歩く御影の頭は先ほどの会話で一杯だった。

 

「大体分かりました。何故渡口さんが太陽さんを振ったのか……正直、もしそれが正解なら、私的には渡口さんを責められませんね。女として、いや、一人の恋する人間として辛いですから」


 あくまで憶測に過ぎない事だが、太陽の話の中の小さなピースを集めて作った予想。

 その予想が的中なら、御影は光だけを責める事は出来ないと語る。


「けど、もしそうだとしても頂けませんね。他に好きな人が出来たなんて最悪の……いや、もしかしたら言葉の転換を……それはありえませんか。だとしても言うべき言葉ではありません」


 光の心情を察しても同情はするものの遠慮はしない御影は、夜空に浮かぶ月を仰ぎ。


「まあ、確かに同情はしますが、運が無かった事でお願いしますよ渡口さん。私、かなりの負けず嫌いですから」


 御影は何事でも負けるのを嫌う。

 陸上でも、勉強でも、恋愛でも、自分が好敵手ライバルと認めた相手には特に。

 だから、敵に塩を送る行為はしない。自分が勝つ為なら卑劣であろうが正々堂々の範囲で勝負をする。

 その為に、御影は予測が付いても太陽に光の事を話そうとはしなかった。

 もし太陽が知れば、もしかしたら光に対して何かしらの気持ちの変化が生まれるかと危惧したから。


「ごめんなさい太陽さん。けど、女の子は自分の為なら意地悪にもなるんですよ」


 御影は先ほど太陽にした手で鉄砲の形を取り、


「バーン、これには2つの意味があるって事に気づいてますか、太陽さん」


『恋のピストルが鳴ったら、私は全力で走ってみせます。全力疾走は私の得意分野ですから』


 まだ太陽昔の恩人だと知る前に自分が放った言葉。

 今まで陸上一筋で恋に憧れはしたが、初恋もまだだった恋愛経験皆無の御影は恋の始まりを知らない。

 だが、御影の胸に潜む高まりは直ぐに恋だと分かった。彼の前にいるだけでも顔が熱くなる。

 その反面、先ほどまでは平静を装っていたが、正直、一言一句の度に胸が痛かった。

 太陽の過去を知るのも、それで太陽と光の恋人話を聞くのも嫉妬に近い痛みを感じた。

 

「だけど、もう恋のピストルは鳴りました。太陽さんの女遍歴がどうであれ、重要なのは現在です。本気で振り向かせてみせますからね!」


 宣言した通り、恋を自覚した御影は全力で走ろうとする。太陽を振り向かす為に。

 そして、指鉄砲のもう一つの意味は、


「そしていつか射貫いてあげます! そして私に永久にゾッコンさせてあげますから覚悟しておいてくださいね、太陽さん!」


 放たれた恋の弾丸で太陽の心を射止める為に御影はもう止まらない。

 

 この夜にまた一人、恋に突っ走る少女の恋の物語が始まった。

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