食堂にて

「ふーん? 太陽君、文化祭の係になったんだ」


「そうなんだよ。全く、俺ってとことんくじ運が無いよな……はぁ」


 昼食を求めて生徒達が賑わう食堂の隅のテーブルに対面して座る太陽と千絵、そして太陽の隣に座る信也のいつもの3人。

 太陽はチキン南蛮定食、千絵はカレーライス、信也は生姜焼き定食をそれぞれ食べている。

 本来太陽たちは弁当組なのだが、太陽は今朝のドタバタで弁当を忘れてしまい。

 2人から聞いた話だと、千絵は昨晩も遅くまで勉強していたために今朝は少し寝坊してしまい、いつも弁当を自分で作るのだが、作る時間も無く。

 信也も太陽と同じ理由で家に忘れてしまったらしい。


 違うクラスの3人は偶然食堂で遭遇をして、自然な流れで同じ席に座り談話をしていたのだが、今の太陽の一言に千絵は眉根を寄せる。


「くじ運が悪い、ね……。私の知る限りでは太陽君がくじをしたのって、合宿の肝試しの時だよね? 悪いって事は、やっぱり私とペアだったの不服だったわけ!?」


「いや、そういう訳じゃ……ほらほら恐い顔せずに笑顔笑顔」


「…………………」


「すまん。逆に怖いから笑顔は無しで……ポテトサラダで手をうってくれ」


 千絵の怒りを宥める為に定食に添えてあったポテトサラダを献上する。

 高校になっても相変わらずに太陽と千絵のやり取りに信也はケラケラ笑い。


「それにしても本当に面倒な役回りだな。係となれば、出店だったら品目を決めたり、劇だったら配役を決めたり色々と面倒そうだ。俺達の所も最終的にはくじ引きで決めたが、俺は回避したぜ」


「私の所は立候補で体育祭も文化祭の係も決まったから案外楽だったな。けど、太陽君が文化祭の係だったんなら、私がしても良かったかも。色々と面白そうだし」


「俺の気苦労が絶えなくなるからマジで勘弁してくれ……。つか、今日早速放課後に係で集まらないといけないから面倒だな……。今日放課後は直帰して漫画でも読もうと思ったのによ……」


「いやいや。近い内にテストがあるんだから勉強してよ? 追試とかになっても助けないからね?」


 うぐっ……と今度あるテストの事を思い出されて苦い顔の太陽。

 最近は色々あったり自身の怠けが祟り成績も徐々に下がっている。

 そろそろ勉強を本格的にしなければ、テストが危ういと頭を悩ませていると。


「あっ、奇遇ですね御三方さん。やっぱり仲良いですね、一緒のテーブルで食事なんて」


 ん?と太陽たちは声が掛かった方へと顔を向けると、テーブルの横に御影が立っていた。


「あ、晴峰さん。晴峰さんも食堂で食事を?」


「そうですね。まあ、私の場合は買わずに持参した弁当を食べようと思いまして。あぁー本当に偶然です。も食堂で食べていたなんて」


「…………太陽、さん?」


 千絵が御影の呼称に怪訝そうな顔をするが、御影は「隣いいですか?」と千絵に確認をして、千絵が頷くと千絵の隣の空いた席に腰掛ける。


「てか晴峰。お前のそれ、弁当か?」


「はい。弁当ですが?」


 太陽は御影が持参した袋に入った弁当を見て質問する。

 それに御影は当たり前とばかりに首を傾げて返答するが。


「……弁当にしては大きすぎないか?」


 高校生は成長期に真っただ中である。

 ならそれに等しい程の食事の量は摂るものだが、御影が持参した弁当は運動会などで大人数を想定して作られた重箱の一段目ぐらいに大きかった。


「別にこれぐらい普通ですよ。アスリートはカロリーを多く消費しますから多く食べても損はありません。まあ、動く以上の食事を摂るのはご法度ですが、私はこれ以上動きますのでこれぐらい食べないと持たないのです」


 言いながらに大きな弁当箱の蓋を開ける御影。

 その箱の中には色鮮やかに盛られた絢爛なおかずやご飯達が詰められていた。

 

「うわっ、凄く上品……。それ、晴峰さんが作ったの?」


「はい。昼の弁当は自分で作るのが私の家の決りですので。って言っても、簡単な物以外は冷凍なんですが。この卵焼きおひとついかがでしょうか? これは私が作った渾身の一品です。太陽さんも新田さんもどうぞ」


 差し出されて太陽と信也はお言葉に甘えて御影が作ったという卵焼きを口に入れる。

 千絵も貰った卵焼きを頬張ると、3人はうんと頷き。


「これは美味しいな。ふわふわだし味加減も最適だ」


 信也の称賛に続き千絵もうんうんと舌鼓を打ち。


「そうだね。私もこんな卵焼きは作れないや。凄く美味しいね」


「本当ですか? それは何よりです。太陽さんはどうですか?」


 最後に太陽の感想を御影が尋ねると、太陽もご満悦と笑顔で頷き。


「あぁ、かなり美味しかったぜ。これなら毎日食べたいぐらいだぜ」


 太陽の称賛で千絵と信也は固まる。

 そして御影は満更でもない感じにはにかんで。


「でしたら私が弁当を太陽さんの分も作って来てあげましょうか? 1人も2人も大差ありませんので」


「お、マジか。こんだけ美味しいなら期待が出来るな。面倒じゃなかったら頼むわ」


 太陽は言葉に甘えて頼むが、その回答に千絵は天を仰いで、ちょいちょいと太陽を呼ぶ。


「ん? どうしたんだ千絵うわっ」


 千絵に指で呼ばれた太陽は千絵に顔を近づけると、千絵は太陽の胸倉を掴んで自分に近づける。


「た~い~よ~う~君。色々と聞きたい事があるんだけど、まず、なんで晴峰さんは太陽君のことを太陽さんって呼ぶのかな? 合宿までは古坂さんだったよね? 何かあったのかな?」


「い、いや別に何も……俺も覚えは。正直いきなり俺も呼ばれて驚いたけど、別に人の呼び方なんてどうでもいいだろ?」


 正論を言われ納得できないが口を詰まらす千絵。


「うぅ……確かにそうだけど……。なら、なんで晴峰さんの弁当の件OKしちゃったのかな!? それがどういう意味か分かってるの!?」


「別に他意はないさ。弁当作ってくれるなら、いつも母さんに作って貰ってるから負担も減るし、お金の節約にも……」


「なにそのガメツイ理由!? 女の子から弁当を作って貰うなんて、普通考えれば分かるはずだよね!?」


「え。分かるって、なにが?」


 千絵は悟って呆れる。

 恐らく太陽の称賛は素直な感想なのだろう。

 太陽は良くも悪くも思ったことを口にするタイプ。

 それを言って欲しくなくてデリカシーが欠けてたり、逆に、言って欲しい言葉を口にする天然の女たらし。だが、本当に言いたいと思った事はヘタレな性格で尻込みしてしまうのだが。

 

 千絵は横目で褒められて上機嫌の御影を見る。

 

「……なんか晴峰さん、雰囲気変わった? こんな人に色目使う人だったっけ?」


「は、別に変わってないだろ? お前、何言ってるんだ?」


 千絵は何かしらを御影から感じているのか危機感を覚える。

 それと同時に全く気付いていない幼馴染の鈍感さに頭を悩ませながら。

 

「太陽君、一言言わせて―――――馬に蹴られて死んで」


「何故に辛辣!?」


 3人のやり取りを傍観していた信也は、お冷を呑んで苦笑い。


「……また悩みの種が生まれそうだ……」


 

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