狂奔迷走小林事件簿 ~心霊案件はおことわり~

小谷灰土

「もうね、だから君はだめなんだよ」


 堂前どうぜんさんは一刀両断した。この人は一旦そうだと思い込んでしまうと、勝手にどんどん話を進めてしまうところがある。社交性があるように見えて、会話が噛み合っていない。協調性があるように見えて、ひとりで先に突き進んでしまう。本人が間違いに気がつかないからいい気なもので、これでも物事を見つめる習熟度に関しては深いから、ピタリとはまると鋭くなる。ただし、その鋭さは仕事以外で役に立ったためしがない。


「堂前さん、ちょっと待って、わたしが言いたいのは——」

「いや、もうわかるよ、君はいつだってそうじゃないか。なんのかんのと言って、自分のための言い訳にしてるだろ。学校が嫌いなのはわかる。行きたくないなら行かなきゃいい。でもだからといって、学校教育全般がダメだと決めつけてしまうのは良くない。学校で得られるものだってあるはずだし、生徒全員を毛嫌いする必要もないんだ。今回も勇気を出して学校に行ってみて、よかっただろ?」

「いや、別に先生に呼び出されてプリント取りに行っただけなんですけど。補習の連絡事項があるからって」

「だが、行かなきゃその男の子とも出会えなかったんじゃないのか」

「はあ? 向こうは私のことに興味なんかないよ。その子はね——」

「君ね、そんなことを言うもんじゃないよ。男が下駄箱で女の子を待つのがどんなに勇気のいることかわかってるのか。たとえ君に好意がないにしてもだ。そんなときにどんな風に言えば、先方が傷つかずに断れるのか教えてあげよう。君はその男の子から手紙を受け取って、どう思ったの? 正直に言いな、ちょっとはうれしかったんでしょ。じゃあそのうれしいって気持ちだけを伝えるんだよ。それは嘘にはならないから」


 安手の本に載っていそうな恋愛ノウハウを披露する堂前さんは、いつになく饒舌だった。普段、浮いた話のない私がこういう事を話すもんだから、テンションが上がっているのだろうか。普通にキモいのだが。


「いや、うれしいうれしくないとかの問題ではなくて」

「違う。それは違うよ。相手はリスクを背負って君にアタックしてるんだ。ならその行為に対してだけは、少なくとも敬意を払わないと。そしたら、相手も悪い気持ちは抱かないはずだ。感謝にお金はかからない。君、お礼の心は忘れちゃいかんよ。最近の風潮だと、気に入らないことがあるとすぐクソリプだの炎上だのと言って騒いで、他人を切り捨てる傾向にあるだろ。むろん、悪い行いに対しては擁護する必要もないが、それでも、直接被害を受けたわけでもないのに、第三者が憶測だけで非難に便乗するのはおかしいよ。集団の力は恐ろしい。他人を断罪するのは簡単だ。でもそれじゃ分断を生むだけだ」

「あの、手紙の話に戻しますよ。いいですか」

「ああ、いいとも。俺は君が手書きでお礼の返事くらいあげて然るべきだと言いたいね。相手だって、それでよもや勘違いはすまい」

「ねえ、聞いて、そうじゃなくて。ほんとに、いいですか? 手紙は、わたし宛じゃないの」

「ほう、じゃあなにか。君は伝書鳩の役割を仰せつかったのか。さてはミケのガチ恋勢だな。恋のキューピットか、可哀そうに。それならそうと早く言いなよ、でないと——」

「いや、依頼なんですよ。あなたに」

「え」

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