ミッション2 スラム街で受け取り案件
2-1 拓とスラムへ向かえ
笠原拓が「ちょうど近くを車で走っていたから……」などと言って事務局に寄ったのは、単に伊野田を迎えに来たというより、確実にスラムに同行させるためだろうな、と思いつつ、伊野田は無言で車に乗った。こちらとしても電車移動する手間も省けるのでむしろ良かったな、と伊野田は思った。
色黒の肌に明るい髪色のひょろりとしたこの男は、見た目以上に慎重な男だ。自分の身を守るためなら勝ち試合であってもすぐに撤退するような、伊野田は彼にそんなイメージを持っていた。
車内で局長から直々に呼び出され釘を刺された話をすると、笠原拓は唇を尖らせて無言の反論をしたように見えた。そして琴平がだいぶ無茶をしていたことを彼は知っていたらしい。
結局、琴平と長年行動している割には、彼のことを一番知らないのは自分なのだな、と伊野田は自分に呆れそうになった。
やがて車はオフィスビルの群れを抜け、陽の陰る区域へと向かっていった。辛うじて人通りの残っているパーキングに車を預け、二人は歩いた。下水と油の混じったような匂いが、うっすら立ち込めている。
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