1ー3ウェティブとは

 先刻、瓦礫区域で遭遇した…とはいうものの”本人と会ったわけではない”。ウェティブもまた、オートマタ用の素材として生み出されたデザイナーベイビーだ。ウェティブと伊野田は同じ境遇にあり、同時期に同じ方法で造り出されたのだが、今は真逆の命運にある。


 自分は事務局により笠原工業から連れ出され、残った彼だけが唯一オートマタ化に成功し、ウェティブ・スフュードンという登録名がついた。だが成功とは名ばかりで、存在は不安定なものだった。本体が動き回れない状態であるらしく、自身のデータを各地に点在する違法機体に飛ばすことで動き回っている。伊野田を探し、幽霊のように大陸をさまよい、実験を免れた伊野田になり替わろうと目論んでいる。


 伊野田は、ウェティブ本来の顔を覚えていない。幼少の頃は同じラボにいたらしいが、琴平ら当時の事務局によって伊野田だけ連れ出された。次の実験対象だった自分にもアトラスという登録名が準備されていたと、あとから知った。それからは延々と追いかけっこが続いている。違法オートマタが発生すれば、ウェティブが転送してくる前に破壊する。それが仕事だ。


 たびたび遭遇してきたが、少なくとも彼を見て自分も”ああなりたい”と思えないのだからオートマタ化する気はない。オートマタ化に順応するよう設計された自身の身体は、相反するように人間に対してアレルギー反応が出るようになった。それが結果的に対オートマタ応戦時に自分の機動力強化になっているので皮肉なものである。戦うには便利だが、自分が求める普通の生活をするには不便だった。

 全ては激化するオートマタ産業でトップに立ち続けるため、軍需産業に力をいれた笠原工業の計画だった。


 

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