47.マジカル・サイシュウケッセン

 あたりにはすでに数えきれないほどの光の槍が現れ、次々に敵へ向かって飛んでいく。その光景はまるで光のシャワーが降り注いでいるようだ。訪問者ビジターたちはこちらへたどり着く前になす術もなく体を刺し貫かれて散っていく。この圧倒的な射程と破壊力こそが閃光シャインの強みだ。と言ってもこれは基礎能力の高い夢だからこそ実現できる芸当でもある。術式コードはあくまで武器の一つでしかなく、使う者の力量によって強くも弱くもなる。


「これ、あとどのくらいかかるんですか!?」


『少し待ってくれ。……ふむ、どうやら奴らも思った以上に知恵をつけているようだ。あと五分、いや十分はかかる。それまで持ちこたえてくれ』


「はあ、簡単に言ってくれちゃって。意外と人使い荒いよね、提供者プロバイダーくん」


「ちょっと、文句言ってないで集中して」


「へいへい」


 降り注ぐ光の槍と鋼の雨はまったく敵を寄せ付けない。この調子ならどうにか十分持ちこたえられるかもしれない。その時、何かガラスにひびが入ったような、そんな音が聞こえた。


「気を付けて! 来る!」


 空間に生じた亀裂から突如として漆黒の騎士が現れる。提供者プロバイダーに向かって振り下ろされたその一撃をどうにか刀で受け止めた。だがその直後に騎士の回し蹴りを食らい吹っ飛ばされる。


術式コード外海ダイブ!」


 脇腹の痛みをこらえながら私は亜空間に入る。とにかく今は提供者プロバイダーを守らなければ……! すると夢が腰の細剣を抜き放ち騎士に切りかかっているのが見えた。


「さっちゃんは周りの敵を!」


 そう言いつつ夢は騎士と剣戟を続ける。夢が実戦で近接戦闘をしているのを見たのは初めてだが、その動きには無駄がなくあの騎士にも後れを取っていない。その時、五月の放つ鋼の雨をくぐり抜けて二体の首なしがこちらに接近してくる。


「瀬戸、カバー!」


 あんただって人使いは荒いでしょうが! 心の中で毒づきながら、首なしの背後に回ってその翼を切り裂き、続けざまに右腕を切り落とす。さすがアカツキの愛刀、切れ味は抜群だ。だがその隙にもう一体の首なしが斧のような形状をした武器をこちらに投げ放つ。


術式コード閃光シャイン!」

術式コード浸透レイン——五月雨バースト!」

術式コード外海ダイブ!」


 私が再び亜空間へ戻るのと同時に、光の槍と鋼の雨が首なしたちの体を貫く。一瞬でも私が遅れていれば私も攻撃に巻き込まれていただろう。それでも躊躇なく攻撃を放ってくるのは、二人が私なら避けられると信じているからだ。真の連携はこういった信頼関係の上にしか生まれない。

 夢はなおも騎士と一進一退の攻防を繰り広げている。このレベルの戦いをしながら他人の援護までできるのがドリームスターライトという魔法少女なのだ。やはり私などその足元にも及ばない。だけど、いや、だからこそ私は私にできることをする。身を隠したまま騎士の背後に迫り、その首めがけて刀を振り払う。


 手ごたえは、ない。騎士はその身をかがめて刀の一閃をかわしている。そのまま素早く振り返り私に切りかかった。——だが、二度も同じ手は食らわない! 騎士のその表情のない顔面に思い切り蹴りをかまし、反動を利用して後ろに下がる。さすがの騎士もその衝撃に数秒動きを止めた。そして夢がその隙を逃すはずはない。


術式コード閃光シャイン——明滅スターライト!」


 眩い光と共に現れた槍が内側から騎士の体を刺し貫く。その強固な外殻も閃光シャインの前では意味をなさなかったようだ。騎士はその傷口から青い血のようなものを滴らせながら何かを叫んでいる。この前の個体のように人間の言葉が話せるわけではないようだ。だがその叫びはなんだか笑っているようにも聞こえる。すると今度は提供者プロバイダーの声が聞こえた。


『気を付けろ、何か仕掛けてくるぞ!』


 騎士が腕を振ると無数の剣が現れ高速で放たれる。


術式コード外海ダイブ!」


 ギリギリのところでその攻撃をかわす。だがその時、目の前にいた騎士が忽然と姿を消した。いったいどこへ行った? 周囲からは騎士のものらしき魔力は感じられない。本部で戦ったあの個体は自分たちも亜空間を制御する技術を持っていると言った。そしてこの感覚はまさに私が外海ダイブを使った時のものに近い。おそらくあの騎士は今、私と同じように亜空間の中に潜んでいる。そうであるならば、次に奴らが狙う場所は——


 提供者プロバイダーのすぐ近くの空間に亀裂が入っているのが見えた。やはり最初から狙いはそっちか……! 全速力で提供者プロバイダーの元へ向かう。大丈夫だ、この距離なら間に合う! 空間の裂け目から騎士が現れるのと同時に、私はそこへ刀を突き刺す。今度は確かな手ごたえがあった。

 騎士の胸の辺りに深々と刀が突き刺さっている。それでも騎士の放つ魔力は未だに消えない。膂力だけでなく生命力も相当なもののようだ。素早く騎士の右腕が動き、鋭い突きを繰り出す。しかしそれは私に向けたものではなかった。騎士の手はすぐそばに浮かんでいたこの空間の核を貫いている。


『まずい、離れろ!』


 提供者プロバイダーがそう言うのが聞こえた。その瞬間、騎士の放つ魔力が急激に高まっていく。私は提供者プロバイダーの体を抱えてとっさにそこから離れる。すると騎士の体に徐々に変化が表れ始めた。核が少しずつ騎士の体に飲み込まれていき、外殻は赤黒く変色し傷も塞がっていく。


「これは……!?」


『こうなってしまったか……。あいつは核と同化したようだ。今この空間の支配権はあいつが握っている。このままではこちらが支配権を奪うことはできない』


「じゃあ、あいつを倒さないといけないってことですか!?」


『理論的にはそういうことになる。しかし……』


 騎士が放つ魔力は先ほどまでとはまったくの別物になっている。それは今まで感じた事がないほど、重く威圧的なものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る