45.マジカル・サクセンカイギ
指令室が吹っ飛んだせいで本部はその機能の大半を失ってしまったが、幸い人的被害はゼロに抑えることができた。美月も数日安静にしていれば特に問題はないだろうとのことだった。残っていた
だが総司令にはまだ何か考えがあるようだった。本部の復旧作業が進む中、私たちにまた招集がかけられた。指定された集合場所は本部の最下層、
扉が開いた先には思ったよりも広い空間が広がっていた。そこにたたずむ人影が二つ。一人は総司令、そしてもう一人は——
「やっほー、久しぶり」
「……は!? なんであんたがいるの!?」
「あー! さっちゃん、お久しぶりですー!」
そこには広島にいるはずの五月がいた。唖然とする私に総司令が声をかける。
「今回の作戦のために私が招集したんだ。メイ、セブンス、ドリームスターライト……
そう言う総司令の手にはなぜかぬいぐるみのようなものが抱えられている。しかし総司令の顔はいたって真剣だ。はたして突っ込むべきなのかどうか。私が迷っていると夢がスッと右手を上げる。
「あのー、ところでそのウサギさんみたいなのは何なんでしょう?」
「あっ、聞くんだ……」
「ああ、これは
「……ええ!?」
なんだか突っ込みどころが多すぎて少し混乱してきた。するとそのウサギっぽいぬいぐるみがあろうことか流暢に話し始めた。
『これはあくまで仮の姿だ。本体は別の場所にいる。人間心理に基づいてなるべく平和的かつ友好的なデザインにしたつもりなのだが……まあそれはいい。今回の作戦には私も同行する。戦闘能力は持たないので君たちに護衛してもらいたい』
「は、はぁ」
「……とにかく皆揃ったようだし作戦の目的と概要を説明するぞ」
総司令は一つ咳払いをして話を続ける。
「今回の襲撃で我々は大きな被害を受けたが、なんとか敵を退け
「こちらからって……いったいどうやってそんなこと……」
『ここからは私が話そう』
総司令に抱えられたまま今度は
『私たちも今回の件をただ指をくわえて見ていたわけではない。奴らの発するウェーブを分析し、この世界への侵攻の拠点となっている異空間の位置を特定した。空間転移の中継点となっているその空間を奪取することができれば、敵は
「君たちは
「あのー、うちはどうすればいいんですか?」
「アカツキはこちらで待機してくれ。美月が戦えない今、この関東圏を守れるのは君しかいない」
「まあ、しゃあないか……。三人とも頼んだで」
「作戦の決行は明日だ。本部がこの状況では大したサポートはできないが、それでもできる限りのことはする。何かあったら遠慮なく言ってくれ」
明日、私たちがこの世界の命運を決めることになる。不思議と気負いはなかった。覚悟なら五年前魔法少女になると決意して家を出た時からすでにできている。私は全てを終わらせるという夢を叶えるんだ。胸の内でそう誓った。
「お、こんなとこにおったんか」
私が武器庫で装備を物色していると後ろからアカツキに話しかけられる。
「私の鎌は壊れちゃったから……気に入ってたんだけどな、あれ」
「わかるわ。なんか愛着湧いてくるよな」
「……ねえ、代わりの武器なにがいいと思う?」
「んー、せやなぁ……」
アカツキは少し悩んでから自分の刀を手に取った。
「これ、貸したるわ」
「え、いいの!?」
「ええよ。セブンスなら使いこなせると思うし……うちにはこのくらいしかできんから」
「アカツキ……ありがとう」
「セブンスならできる。うちもそう信じてる。頑張ってな」
「あー! なっちゃん見つけましたー!」
「ちょっと、なに……?」
私が食堂で少し遅めの夕飯を食べていると夢がこっちに駆け寄ってくる。
「あのですね、お花見の件なんですけどどうせなら見学会みたいに一般の人も入れて一緒に楽しむのはどうかなーって思って」
「は!? なんでそうなんのよ!?」
「えーだってその方が楽しそうじゃないですかー」
「はぁ……。もう好きにしたら?」
「じゃあ明日戻ってきたらさっそく総司令に相談してみましょう! もちろんなっちゃんも来てくれますよね?」
「はいはい、わかったよ」
「絶対ですよ? 約束ですからね」
「……うん、約束する」
「えへへ、それなら安心です。それじゃあなっちゃん、おやすみなさい」
「あれ、瀬戸じゃん」
中庭の桜の下、冬の澄み渡った夜空を眺めていると不意に五月の声がした。
「え……? ちょっと、なんであんたがここにいんのよ」
「いや、散歩してたらたまたま。瀬戸こそ何してんの? 風邪ひくよ?」
そう言いながら五月はこっちにやって来て私の隣に腰掛ける。
「……星を見てた」
「あれ、そういう趣味あったっけ?」
「いや、ないけど」
「はは、そっか」
今夜は良く晴れているけど、結局東京のど真ん中にある本部じゃ星なんてほとんど見えない。それでも今は、こうしてどこか遠くを見つめていたかった。
「本当によかったの?」
「ん、なにが?」
「あんただって本部に来れて嬉しいってキャラじゃないでしょ」
「まあそうだけどさ。同期二人が頑張ってるのに私だけぼんやりしてるわけにはいかないじゃん」
「……あんたもそういうこと言うようになったんだね」
「もう十九だしね。それとも前の方がよかった?」
「いや、今の……まあ、どっちでもいいや」
「はあ、相変わらずつれないなぁ瀬戸は」
「ちょっとそれどういう意味?」
「別にー」
五月だって相変わらずだ。のらりくらりとしてあまり本心を見せてはくれない。だけどこうして話していると、少しだけ寒さが和らいでいくような気がした。
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