43.マジカル・ミチトノソウグウ
騎士はゆっくりと振り返り、その瞳のない顔で総司令を一瞥する。まさかこいつ、人の言葉がわかるのか……!? 私が虚空から見守る中、その騎士から人工音声のような音が聞こえた。
「あのトキのセンシか」
騎士は確かにそう言った。それはつまり、こいつらも
「やはりあの時と同じ個体か……。三十年経っても変わらんな」
「オマエはオいたようだな。チカラをカンじない」
「……お前と交渉がしたい。お前の目的はなんだ」
そうだ。今まで考えた事もなかったが、意思の疎通ができるのならば戦うことなく事態を収束させることができるかもしれない。だがそれはあくまで可能性の話だ。三十年以上人類と争い続けてきたこいつらが果たして今更交渉などするだろうか。それでも総司令がそう言うのなら、今は横槍を入れるわけにはいかない。
「モクテキはひとつ。あのオクビョウモノをホロぼすこと」
「なぜ彼らにそこまでこだわる?」
「ヤツらはアラソイをキラう。ゼイジャクでムカチなソンザイ。ユエにホロぼしスベテをウバう」
「……弱きものは無価値、強さが全てだと?」
「アラソイはセイギ。シュをEvolutionにミチビく。ワレワレはスベテのアラソイをコウテイする」
「そのためにこの三十年争い続けてきたというのか……!」
「オマエたちもオナじだろう? アラソイによってチカラをエた」
「私たちは争いを肯定しない。この争いを終わらせるためにずっと戦い続けてきたんだ。平和を軽視するお前らとは違う!」
「Intelligenceがタりない。やはりカトウセイブツか」
騎士はそう言って左腕を軽く振る。その瞬間、急激に魔力が高まっていくのを感じる。これはまずい!
私が亜空間から飛び出すと同時に、突如として出現した漆黒の剣が総司令に向かって放たれる。間一髪のところでその剣を鎌で弾き返す。重く、鋭い一撃だ。
「セブンス! 来てくれたのか……!」
「下がっててください! こいつは私が倒します」
騎士は私と対峙してもその悠然とした佇まいを崩さない。今までの敵とはまったく違う存在だ。一筋縄ではいかないだろう。
「Seventhか。オモシロいナだ。オボえておこう」
「その必要はない!」
私は床を蹴り鎌で騎士に切りかかる。だが騎士はその一撃を片手で軽々と受け止める。こいつの膂力はやはり首なしをさらに凌駕しているようだ。そして次の瞬間には私を取り囲むように黒い剣が出現する。これではどこにも逃げられない。
「
放たれた剣は私の体をすり抜けていく。回避はどうにか間に合うようだが、やはりこのままでは攻め手に欠ける。
だが一切の手ごたえを感じなかった。騎士はその身をかがめて鎌の一閃をかわしている。この攻撃をかわされることなんて、今まで一度もなかったのに……! 騎士は低い姿勢のまま素早くこちらに振り返る。その手にはすでに剣が握られている。
「
駄目だ、速い! そう思った次の瞬間には体は弾き飛ばされ背に強い衝撃を感じる。わずかに遅れて激しい痛みが全身を襲い、視界がくらむ。駄目だ、意識を手放すな。素早く状況を整理しろ。脳のどこかで何かが告げる。体は……動く。欠損はない。出血もない。壁に叩きつけられたようだ。鎌の柄が折れている。反射的に鎌で斬撃を防いだが、衝撃でここまで飛ばされたということか。そしてまた強い魔力を感じる。
「
目の前に現れた光の盾に次々と剣が突き刺さる。どうにか攻撃は防いだが、この距離で戦っている限りこちらに勝機はない。きしむ体を無理やり動かして、再び騎士に向かっていく。騎士が腕を振るう度、いくつもの剣が生み出され放たれる。飛来する剣をかわしつつ、その時が来るのを待ち続ける。あと、十二秒。だがその時、騎士が一気に踏み込みこちらとの距離を詰める。それと同時に周囲に剣が出現し逃げ場を奪われる。武器を失ってしまった今、この数の剣に対処するのは不可能だ。
——なら突っ込むだけだ! 身をかがめて斬撃をかわし、思い切り床を蹴って騎士にタックルをする。密着してしまえば剣は振れないし、かといって自分に向かって剣を放つわけにもいかない。騎士は手にした剣を捨て、私の体に掴みかかる。力で勝負すればこちらに勝ち目はない。
「
重力から解き放たれ急激に加速した私の体は騎士と掴み合ったまま上空へと飛んでいく。だがここは指令室の中、上にあるのはコンクリートの天井だ。そのまま速度を緩めることなく騎士の体ごと天井へと激突した。天井は砕け、騎士の上半身がめり込んでいる。だが一息つく間もなく私の体は強い衝撃と共に弾き飛ばされる。激しく床に叩きつけられ、ようやく騎士の蹴りを食らったのだと理解した。
上を見上げれば騎士はその拳で天井を粉砕しすでに自由を取り戻している。騎士の魔力が再び強まり、周囲に剣が現れる。やはり
騎士がその腕を振り下ろそうとしたまさにその時、私は床に落ちていた折れた鎌の刃を騎士めがけて投げつける。騎士がその刃を剣で弾き落としたのと同時に、私は全速力で飛び上がり騎士に向かって手を伸ばす。
金属に触れたような、冷たい感触があった。
「
一瞬の静寂の後、世界は外海の底へと沈んだ。
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