37.マジカル・ソウシレイカン
再び四人で集まったのはそれから一時間後、今度は待機所ではなく本部の指令室でだ。広島支部に比べるとやはりオペレーターの数も多いし、皆どこか忙しそうにしている。その片隅で私たちは総司令の到着を待っている。
「なあ、総司令ってどんな人なん?」
「キリッとした感じの美人さんですよー。あ、あとコーヒーより紅茶派らしいです」
「……もうちょっと他の情報ないんか?」
「……当然ご存知とは思いますが総司令は元魔法少女です。私たちの悩みや苦しみも充分に理解しておられますし、実戦の中で培ってきた正確な判断力もお持ちです。現役の時の実績は言うまでもありませんし、カリスマ的な指導者と言えるでしょうね」
その時、指令室に長身の女性が入って来た。すれ違った職員たちは皆、彼女に軽く頭を下げて通り過ぎていく。その人は私たちの目の前までやって来てそこで足を止めた。その凛とした佇まいからは静かな覇気と貫禄を感じる。
「待たせてすまない。私が総司令官の火野道子だ。二人とも遠いところからよく来てくれた。これからしばらくは本部で一緒に戦って欲しい。よろしく頼む」
「あ、はい、こちらこそよろしくお願いします」
「あのー、しばらくっちゅうことは大阪に戻れる可能性もあるってことですか?」
「そうだな、そのあたりについてもきちんと説明しておこう。夢と美月も一緒に聞いてくれ」
「はーい」
「わかりました」
「……今回、セブンスとアカツキを本部へ呼んだのは単なる人員補強ではない。この異動自体が前々から計画されていたものだ。先日の戦闘はそのきっかけにすぎない」
「え? どういうことですか……?」
「ちょうど君たち二人が倒した特殊型の
「では今回現れたあの人型の敵が
「それについては先ほど
「なるほどー、なっちゃんたちを呼んだのはその脅威に備えるためだったんですね。てっきり私へのご褒美かと思ってました」
「当初の想定より戦力は減ってしまったが、それでも君たちは現役トップクラスの実力者だ。各支部の状況が落ち着いたらさらに人員の追加召集もかけるつもりでいる。そして脅威を退けることができれば二人も元の任地に戻れるだろう。……今、ここが正念場なんだ。どうか力を貸してほしい」
あれ以上の敵が今後現れる可能性がある。だがそいつらを倒せば、今度こそこの戦いを終わらせることができるかもしれない。心の奥底で冷えてしまっていた何かが再び熱を帯びていくのをはっきりと感じた。
待機所に戻った私たちだったが、これといって特にすることがないというのはどこも同じようだ。敵がいつ攻めてくるかわからない以上、こちらも無暗に動き回るわけにはいかない。
「しっかしえらいことになったなぁ。東京観光しとる暇はなさそうやな」
「と言っても今は我々も待つことしかできませんが。施設内もほぼ案内しましたし」
「あ、そういえば魔技研……だっけ。あれってどこにあるの?」
「マギケン? なんやそれ、福の神的なあれか?」
「それじゃありません。魔法技術局特認研究所の略です。ここの地下三階にありますが……興味あるんですか?」
「まあ、ちょっと。どんなことしてるのかなぁって」
「なっちゃんは養成所に来た時から魔法には詳しかったですもんね。筆記試験はいつもダントツトップでしたよ」
「詳しいことはわかりませんが、今は対
「ま、魔法兵器!? それ、大丈夫なの……?」
「そもそも私たちが日常的に使っているゲートだって、攻撃能力を持たないだけで立派な魔法兵器です。それにそういったものが完成すれば、魔法少女の負担を大きく減らすことができます。総司令はもともと魔法少女の待遇改善を掲げて今の地位までのし上がった人です。そういった点に関しては並々ならぬ思いがあるのでしょう」
「うーん、なんかややこしいな。セブンスの言いたいこともわからんではないけど……」
「どのみち魔法の研究は必要ですからね。総司令もそういったことには注力しているようですし」
「……まあなんにせよ、私たちは総司令の意向に従うだけです。……重ねて言っておきますが、この前のような無茶は控えてくださいね、瀬戸七海さん」
「あ、はい……」
「なんや、またなんかやらかしたんか」
「ちょーっと危なっかしいなっちゃんも、それはそれでかわいいですよー」
なんだか広島支部にいた時より、相対的に立場が低くなっている気がする。先輩面をしたいわけではないので別に不満はないが、この雰囲気に慣れるにはまだ時間がかかりそうだ。
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