34.マジカル・ヒッサツワザ
「……五月、行くよ」
五月と二人がかりなら勝算はある。そして負傷したとしても、引退間近の私たちなら影響は最小限で済む。五月はなんだか少し間の抜けた表情をしていた。ああ、そういえばちゃんと本人の前で名前を呼んだのはこれが初めてかもしれない。でもまあ、これが最後の戦いになるかもしれないんだ。それくらいのサービスはしてやってもいいだろう。
「……あ、うん」
「だったら私も……!」
「理沙たちはここで待機。本当に深度八なら、何が起こってもおかしくない。それに今回は敵が近すぎる……。あなたたちがここを守って」
とにかく今はぐずぐずしている暇はない。待機所を飛び出しながら、五月と二人で変身する。
「
「
施設を出て南東に向かうと、それはすぐに見つかった。平穏な瀬戸内海には決しているはずのない存在。それは強いて形容するならば、天使とでも言うべき姿形をしていた。身長は三メートルほど、金属質ではあるが人に似た体と四肢を持ち、背中からは発光する翼のようなものが生えている。そこだけを見ればその存在に何らかの神聖さを見出すことも不可能ではないだろう。だが目の前のそれには頭部が存在していなかった。そのたった一つの事実が、私たちにそれを敵だと認識させる。
「うへぇ、首なしかぁ。ちょっとデザイン攻めすぎじゃない?」
「気を抜かないで。まずは
そう言いかけた時、首なしの翼が不意に輝きを増す。そして次の瞬間には光の尾を引きながら首なしがこちらに突っ込んできていた。思っていたよりも、いや、今までのどの
「
メイの掛け声とともに銀色の水流が首なしを飲み込み押し流していく。そしてそこに追い打ちをかけるように鋼の雨が降り注ぐ。メイの使う液体金属はその形状や硬度も思いのままに操ることができる。しかし
「
「言うと思ったよ……。ま、しょうがないか」
首無しは再び翼をはためかせ私たちに向かってくる。今度はメイがそれを正面から迎え撃つ。
「
先ほどの数倍の勢いで首なしに向かって鋼の雨が降り注ぐ。一瞬動きを止めた首なしだったが、その翼を盾にしてメイの猛攻を防ぐ。そして翼が開かれると同時にナイフのように鋭い光の刃が放たれ、メイに襲い掛かる。メイは瞬時に壁を形成しその攻撃を防ぐ。その一進一退の攻防の隙に私は首なしの背後を取り一気に距離を詰める。この手が触れれば私の勝ちだ……!
その時、不意に目の前で何かが輝きを増す。なんと首なしの背から新たな翼が生えてきている。そしてその翼から至近距離で光の刃が放たれた。今からでは
刃物が肉に刺さったような、不吉な音が聞こえた。しかし覚悟していた身を裂くような鋭い痛みは訪れない。何かが、私の目の間にある。まさか——
その背中は、とても見覚えのあるものだった。
「理沙……!? 理沙っ!!!」
その瞬間、高速で何かが飛来し首なしの翼を切断する。同時に、あっけに取られていた私の体は何者かに連れ去られていく。私の体を抱きかかえていたのは他でもない、トライだった。
「先輩、大丈夫ですか!?」
「え……今のは……?」
「分身に攻撃をかばわせたんです。……すみません、待機してろって言われてたのに。でもまあ、今のでお叱りはなしってことで」
「は……はぁ……驚かせないでよ、心臓に悪い……」
翼を切られた首無しにさらにトライの分身が切りかかるが、片手で剣を受け止められ、その体をもう一方の腕で貫かれる。やはり近接戦闘では向こうが上手だ。どうにかして隙を作らなければ、
「五月先輩!」
「わかってる!
五月が唱えると周囲を漂っていた液体金属が首なしにまとわりつき、少しずつ固形化して霜のようにその体を覆っていく。首無しはそこから逃れようとするが、腹部を貫かれながらもトライの分身は首なしの腕を離そうとしない。全身を固められた首無しは凍り付いたかのように動けないままでいる。
「先輩!」
「瀬戸!」
二人の声が私の背中を押す。すでに首なしの翼は再生しかかっている。あれが元に戻ればまた液体金属を蒸発させられてしまう。その前に、なんとしてでも仕留める!
「
私の手が首なしに触れる。その瞬間、滲みだす魔力が空間を歪め世界が暗転する。
「さよなら……私の……いや、私たちの勝ちだよ」
表情もなく虚空に浮かぶその天使もどきの
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