32.マジカル・キンキュウレンラク
「やっほー、起きてるー? ……って、こりゃ失礼」
「ちょっと……! ノックくらいしてよ」
朝一番、パジャマから着替えている最中にいきなり五月が部屋に入ってくる。まあこいつとは養成所で相部屋だったので今更なんとも思わないが。五月は特に気にした様子もなく話し始める。
「で、どうだった? 実家」
「……まあ、帰ってよかったかな」
「ほらね。案ずるより産むが易し、迷ったらやってみればいいのよ」
「あんたは帰らなくていいの?」
「いいのいいの、うちは放任主義だから。兄貴たちもいつのまにか海外留学とかしてるみたいだし」
「留学って……もしかしてあんたの家って結構なお金持ち?」
「さあ、どうだろうね。じゃ、先行ってるよ」
五月の家庭事情についてはさっぱりわからない。兄がいたということすら初耳だ。だが五月の何かとルーズな部分は、逆に言えば心の余裕やゆとりの表れかもしれない。意外と本当に裕福な家庭の生まれだったりするということはありえそうだ。まあだとしてもお嬢様なんて感じにはとても見えないが。
着替え終わって私も朝食を食べに食堂へ行こうとした時、急にスマホが震えだす。何事かと思って画面を見れば、あいつから電話がかかってきている。これはどうするべきだろうか。しかしここで無視したところであいつがそう簡単に諦めるとも思えない。観念して電話に出ることにする。
「……もしもし」
『なっちゃん! いったいどういうことですかぁ!?』
「……いや、だから何が?」
『とぼけたって無駄です……! 話はちゃーんとみーちゃんから聞きました!』
「みーちゃん……? それって青島美月のこと?」
『そーです! こっちに来てたならどーして会いに来てくれなかったんですかぁ!?』
「いや、だって本部まで行くのめんどくさいし……」
『めんどくさい!? 今、私のことめんどくさいって言いました!?』
「あーもう、このやり取りがめんどくさい」
『ひどいです、なっちゃん……! 私はこんなにもなっちゃんに会いたいと思っているのに……!』
「そうは言うけどあんただって今色々と忙しいでしょ」
『え? まあ確かに忙しくないと言えば嘘になりますが、なっちゃんに会えるのならたとえ火の中水の中です。最優先事項なのです』
「いや、あんたがふらふらしてたら皆困るでしょ。どうせ引退すればお互い少しは暇になるだろうし、その時にでも会えばいいじゃん」
『えー、でも私は今なっちゃんに会いたいんですー。最後に会ったの一年前ですよ、一年前。恋人だったらとっくに破局してます』
「いや、恋人じゃないし……。ていうかもう切っていい?」
『あー! 駄目です駄目です! まだ話したいことあるんですから!』
「はぁ……。じゃあとっとと話してよ」
『えーとですね、先日なっちゃんがアカツキさんと一緒に倒した
「……そういう真面目な話をまず先にしてほしいんだけど」
『私にとってはどちらもとても真面目な話なのです。それでですね、あの
「特殊型……って具体的に何がどう特殊なの?」
『そこがわからないからこうしてなっちゃんにお電話してるんですよー。何か思い当たることありませんか?』
「ええ? そう言われてもな……。まあなんか変な能力を持ってたってことは確かだけど」
『変身が解けちゃう鱗粉ですね。それにしてもそんな相手どうやって倒したんですか?』
「いや、倒したのは私じゃなくてアカツキだから……」
『むう、相変わらずなっちゃんは謙虚ですね。そういうところもかわいいです』
「……切っていい?」
『あー! だから駄目ですって! ほら、何でもいいから気になったこととかないですか!?』
「気になったこと……といえばなくはないけど」
『おお、なんですかなんですか』
「いや、そんな大したことじゃないんだけど、そもそも変身が解けるって何? っていう」
『何? っていう……っていうのは、どういうことですか?』
「あー、なんていうか、変身ってまずリングでするわけじゃん。で、リングって
『なるほど、こちらの手の内……
「ここ最近は
『なっちゃんまでそんなことを言いだすなんて、これはいよいよ何かが起こってしまうかもしれませんね。ああ、そうであればなおさらなっちゃんに会っておきたかった……!』
「ちょっとやめてよ、縁起でもない」
『あ、じゃあ引退したらさっちゃんと三人でお疲れ様会をしましょう。いやー、我ながら素晴らしいアイデアです。どうしてもっと早く思いつかなかったんでしょう』
「ええ……五月も呼ぶの……?」
『ええ!? 逆になんで呼ばないんですか!? 仲間外れは良くないですよー! ……はっ、もしかしてそれは私と二人きりがいいっていう——』
「なんでそうなんのよ。あんたと五月がそろうと本当にろくでもないことが起こるって話」
『ああ、そういえば一年前のクリスマス会もそうでしたね。あの時のミニスカサンタコスのなっちゃんは今でも鮮明に——』
「もう切るから」
返事を待たずに私は通話を切る。じっとしているとあの日の悪夢が蘇ってきてしまいそうだ。部屋を飛び出して駆け足で食堂へと向かった。
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