22.マジカル・キョウドウサギョウ
「間に合ったみたいで良かったです。ついさっきナインの出撃許可が出たので、連れてきちゃいました」
「それはいいんだけど、まさか手に持ってるそれって……」
「はい! 私のマイ武器です!」
ナインの手に握られているそれは武器、というかどこからどう見てもただの金属バットだ。確かに鈍器としてはそこそこ使えるだろうが、本当にこれでいいんだろうか。だがその疑問を問いただす暇もなく、エイが体をうねらせながら空を泳ぐようにこちらへ突っ込んでくる。その鈍重そうな見た目と裏腹にかなりのスピードが出ている。あんなのにぶつかられたらひとたまりもない。
「
ナインがそう唱えると直径二メートルほどの光球が現れる。そしてどうするのかと思えば、なんとそれをバットで思い切り弾き飛ばした。光球は一直線にエイに向かって飛んでいき着弾すると同時に激しく爆発する。強烈な一撃を受けたエイは不気味なうなり声を上げながら空中でのたうち回っている。
「すごい……! これが真希ちゃんの魔法……」
「えへへ、でも街中では使うなって言われちゃいました」
どうやらこの一連の動作を最適化するためにバットが武器として選ばれたようだ。スカイの鉄壁の防御にナインのずば抜けた攻撃力。性格面以外でもしっかり役割分担ができているように思える。私と同じく様子を見ていたトライが私に声をかける。
「先輩、私たちはどうしましょうか?」
「うん……二人に任せちゃっていいんじゃないかな」
理沙はともかく私や五月はあと半年ほどしか魔法少女でいられないのだ。今後のためにも少しでもこの子たちには経験を積んでおいてもらいたい。支部長もそういった考えがあって二人の実戦投入を早めたのだろう。
「よっしゃ、そういうことならどんどん行きますよ!」
「……待って、なんだか様子がおかしい」
再び光球を打ち放とうとするナインをスカイが制する。見れば何やらエイが身もだえるように体を震わせている。するとその背中の一部が内側から爆発するように破裂し、中からあの誘導弾が飛び出してきた。どうやら塞がれてしまった排出口を吹き飛ばして強引にこじ開けたらしい。
「な、なんすかあれ!?」
「下がってて、私が引き受ける……!」
飛来する誘導弾は前方へと踊り出たスカイへ群がっていくが、
「これじゃ届かない……! 一体どうすれば……」
これほど大きな個体は初めてだが、このエイは分類としては遠距離タイプだろう。索敵能力と攻撃射程は今まで戦ったどの
先日の戦いでわかったがスカイの攻撃は小回りが利かないという欠点がある。誘導弾を避けるのは難しい、かといってぶつかってしまうと勢いが殺される。この状況をどうやって打開するか。しばらくじっと考えていたスカイが口を開いた。
「真希ちゃん、私を打って」
「え? ……え!? 打つって、そんな……」
「お願い、信じて」
スカイはまっすぐナインを見つめる。一瞬迷ったようだったが、ナインはすぐに頷いた。
「……わかりました。美空さんを信じます!」
すでに大量の誘導弾がこちらへ向かってきている。判断を誤れば取り返しのつかない事態になる可能性もある。その時に備えて私もいつでも潜れるように準備しておく。
「いきますよ!」
「全力でお願い……!」
ナインは大きく体をひねり、全力のフルスイングでスカイを打ち放つ。バットは
風船が割れたような破裂音と共にエイの頭部が弾け飛ぶ。急速に浮力を失ったその巨体は海に落下し、激しい水飛沫を上げる。腹を上に向けて海面に浮かぶその体はもはやピクリとも動く様子はない。
「やった……! やりましたー!」
歓喜の声を上げたナインがスカイのもとへと飛んでいく。手を取り合い踊るように空中ではしゃぐ二人を見ていると、自然とこちらも和やかな気分になれる。少し時間はかかったが無事目標の殲滅は完了した。これほどの大きさになると
「結構仲良さそうですね、あの二人。ちょっと安心しました」
「私と五月よりはいいコンビになれると思うよ」
「どうですかね、先輩方も相当仲良いですから」
「いや、別にあいつとはそういうのじゃ……」
「ふふ、そうでしたね。それじゃ早く戻って五月先輩にも後輩たちの勇姿を教えてあげましょう」
いまいち釈然としないが、じゃあ私にとって五月はどんな存在なのかと聞かれても明確な答えは出てこない。似た者同士ではあるが正反対の二人でもあり、背中を任せられる戦友であると同時にただの腐れ縁でもある。とにかくどうしてもあいつを親友だなんて呼ぶ気にはなれないのだ。それは向こうも同じだろう。
五月は私を名字でしか呼ばない。それは初めて出会ったときからずっとだ。私も面と向かってあいつを名前で呼んだことは一度もない。それが私たちの距離感なのだ。魔法少女になっていなければ、絶対に出会うことのなかった二人。だからこそ私たちには、魔法少女であるという繋がり以外は必要ない。たった一つのその繋がりこそが、何よりも強い絆になるとお互いにわかっているから。私たちはきっと、運命によって終わりが告げられるその瞬間まで、魔法少女でい続けようとするのだろう。
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