21.マジカル・サイチョウセン
要請のあった五番ゲートは高知県沖の海上に設置されている。比較的戦いやすい場所ではあるが、深度六ともなれば油断はできない。鎌を手に取り五番ゲートの前に向かう。その時、誰かがこちらに走ってくる音が聞こえる。振り返るとそこには間宮さんがいた。
「先輩……私も……私も行かせてください……!」
その目には確かな意志が宿っているように見える。ああ、やっぱりこの子は強い子だ。私の見立ては間違ってなかった。
「この前よりも強いよ?」
「はい、わかってます。でも、絶対に迷惑はかけません」
「別に迷惑はかけてもいいよ。ただ怪我だけはしないようにね」
「あ……はい」
「じゃあ行こうか」
ゲートが開き、再び二人でその中に入る。この選択が吉と出るか凶と出るかはまだ定かではない。だけどどんな結果になったとしても、この子を支えていこう。その覚悟はできた。
「セブンス、スカイ、出撃準備完了」
『スカイ……!? 観測されたのは深度六だ。……大丈夫か?』
「私がついてます。問題ありません」
『……了解。転送を開始する』
視界が開けると同時にあたりを潮風が吹き抜ける。ざっと見渡したところ航行中の船舶などは見当たらない。ひとまずは戦いに集中することができそうだ。
「南の方だね。……行くよ」
「は、はい」
海上は視界を遮るものもなく索敵は容易だ。しかし目標地点に近づいても
とにかく敵を見つけないことには始まらない。さらに注意深く周辺の気配を探ろうとしたその時、不意に海中から凄まじい勢いで何かが飛び出してくる。一つや二つではない、軽く見積もっても五十はあるだろう。エイに似た形のそれは高速でこちらに接近してくる。
「散開して!」
とっさにそう指示を出し、スカイから全速力で離れる。すると飛来するその物体の半数ほどが私を追うように軌道を変える。おそらくは追尾型の誘導弾だろう。これだけの数を一度に食らえばさすがに無事ではいられない。一度やり過ごすしかないか。
「
私が姿を消すと同時に、目標を失った誘導弾が爆発し紫色の閃光を放つ。スカイも
私がついてます。問題ありません。
出撃前の自分の言葉を思い出す。私は先輩として、あの子を守り通さないといけない。リスクのある選択肢は選べない。私がスカイのもとへと向かおうとしたその時、叫び声が聞こえた。
「先輩、行ってください!」
その声から恐怖は感じられなかった。スカイには私の姿は見えていないはずだ。慣れない戦場でたった一人になり、それでも状況を冷静に判断し、怯むことなく敵に立ち向かう。内気なように見えて、本当は誰よりも強い芯を持っている。勇敢で優秀な、一人前の魔法少女だ。
「……わかったよ、スカイ」
決して届かない返事をして、私は眼下に広がる海の中へと飛び込んでいく。
圧倒的にでかい。鎌で一撃、というわけにはいかなそうだ。見た目は誘導弾と同じでエイに似ているが、その背中には無数の穴が開いている。おそらくあの穴から弾を射出しているのだろう。その時、頭上の方がパッと明るくなる。紫色の閃光、つまりスカイに攻撃が命中したことを意味している。だが託されたものを無駄にしないためにも、今は彼女を信じて目の前の敵に集中する。
エイがその巨体をブルっと震わせると、背中の穴から気泡のような球体が出てくる。その中にはさっきから上空を飛び交っている小型のエイが詰まっている。仕掛けるなら今しかない。
「
放たれた光弾は気泡を撃ち抜き、爆発し、他の気泡に誘爆することでさらに連鎖的に爆発を繰り返す。凄まじい衝撃と共に激しい水流が体に叩きつけ、紫の閃光が海中を不気味に照らす。巻き添えを食らわないよう
「先輩、大丈夫ですか……?」
姿を現した私にスカイが近づく。少し息が上がっているようだが、その体はまったくの無傷だ。この子の実力は当初の想定を大きく上回るものになりつつある。それが純粋に嬉しかった。だがまだ手放しで喜ぶわけにはいかない。
「うん、ちょっと濡れちゃっただけ。それよりまだ油断しないで」
「え?」
「多分まだ仕留めきれてない」
その直後、激しい水飛沫を上げながらあのエイが水上へ姿を現す。その背中は火傷を負ったように爛れ、穴も潰れてしまっている。もうあの誘導弾を放つことはできないだろう。しかしその頑強な巨体に対する有効打はかなり限られてくる。こいつを迅速に殲滅するにはより攻撃的な魔法が必要だ。少し癪だが五月に応援を頼んだ方がいいか……。
私がそう考えていた時、不意に何かがエイに向かって飛んでいく。それは見覚えのある光球だった。エイと接触した瞬間、その光球は激しく爆発する。
「よっしゃー! ナイスバッティーン!」
そこにいたのは苦笑するトライと金属バットを携えたナインだった。
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