19.マジカル・ジッセンキョウイク
『観測所より出動要請、深度四のウェーブを確認。八番ゲートよりただちに出撃せよ。繰り返す——』
新人たちがやって来てから一週間経った日の昼下がり、ついにその時はやって来た。待機所には私と理沙、そして間宮さんの三人がいる。九条さんは武器の調整がまだ完了していないということで、出撃許可が下りていない。
「先輩、どうします?」
「……私と間宮さんで行く。準備はいい?」
「は、はい!」
深度四なら新人の初陣としてはちょうどいいだろう。理沙を行かせてもいいのだが、
「
アニメなんかと違って変身中も敵は待ってくれない。一秒でも早く現場に向かうためには、決めポーズなんて取ってる暇はない。眩い光をまとい変身しながら走り続ける。ゲートルーム前のいつもの場所にある私の鎌を手に取り、八番ゲートに向かった。
「ほら、行くよ」
「あ、はい……」
少し遅れてやってきた間宮さんと共にそのエレベーターに似た装置の中に入る。ゲートの操作は指令室がやってくれるので、中にはボタンなどは存在していない。
「セブンス、スカイ、出撃準備完了」
『了解、転送を開始する。……頑張ってな』
これも詳しいことはわからないが、転送というのは空間そのものを入れ替えているので特に人体に影響はない……らしい。だがどのみちこれを使わなければ防衛は不可能だ。人類に与えられた選択肢はいつだって限られている。それでも私たちは戦わなければならない。
わずかに空気が震える音がして、一瞬で視界が開け景色が一変する。転送先は地点番号八の三。鳥取との県境に近い比較的人口の少ない地帯だ。辺りには紅葉を終えどこかもの悲しさを感じさせる山々が広がっている。ここからウェーブの発生源を特定し、現れる
「こっち……で、合ってますか……?」
「うん、正解。行ってみよう」
「あれが……
「戦い方は教えたよね。……まずは一人でやってみて」
「は、はい……!」
「
光の障壁がスカイを包み込み、あらゆる攻撃から彼女を守る。そして障壁をまとったまま大蛇に向かって突っ込んでいく。一見無謀にも見える行為だが、圧倒的な強度を誇る障壁は高速で敵に衝突することで全てを打ち砕く凶器になる。スカイにとっては
しかし大蛇はその細長い体を器用にくねらせてスカイの突進をかわす。スピードはそれほどでもないが、まるで龍のように空を舞う大蛇の動きは変則的で予測しづらい。二度三度と体当たりを繰り返すスカイだが、やはり敵の動きに翻弄されているようだ。そして鞭のようにしならせた大蛇の尾がスカイを捉え弾き飛ばす。さらに大蛇の頭の部分がまるで開花するつぼみのように開き、そこから放たれた熱線が体勢を崩したスカイを追撃する。
私はあくまでその光景を傍観し続ける。
「……
スカイの声が聞こえた。今までにない力強い声だ。放たれた光弾は大蛇の体をかすめたが有効打にはなり得なかったようだ。大蛇はとぐろを巻くように旋回して光弾を避けながらスカイへと近づいていく。スカイはそれを好機と見たのか、再び大蛇へと突っ込んでいく。……これはあまりよくないかもしれない。魔法少女としての勘がそう告げる。
お互いに勢いを緩めることなく接近した両者だったが、ギリギリのところで大蛇がスカイをかわしすれ違う形となる。そして即座に振り向いた大蛇はスカイの周りを囲むようにぐるぐると回り始める。大蛇の細長い体が檻のようにスカイの行く手を塞いでいく。スカイは体当たりしてその包囲から逃れようとするが、狭い空間ではあまり速度が出せず、かごの中に閉じ込められたボールのように衝突を繰り返している。
「
滲みだす魔力が空間を歪め、私の体を彼方へと誘う。ここは全てが私に利する世界、移動速度も通常の数十倍に跳ね上がる。一瞬で大蛇まで距離を詰め、その不気味に開かれた頭部に鎌を振りかざす。敵は攻撃をくらうその瞬間まで私には気づけない。例えるならそれは、水辺の獲物と水中に潜む捕食者。私の牙は誰にも防げない。
はね飛ばされた大蛇の頭部が真っ青な体液をまき散らしながら宙を舞う。スカイはただ呆然とその光景を眺めていた。
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