18.マジカル・メイメイシキ

 魔法少女になる、といっても魔法技術局の認可が出ればすぐにでも変身できるというわけではない。魔法少女としての名称登録、自分に合った武器の選定、そして何より提供者プロバイダーによる制限解除と固有術式ユニークコードの動作確認を行わなければならない。変身に必要なリング自体は候補生全員に支給されているが、その性能は大きく制限されている。魔法技術局の認可を得て正式に魔法少女に任命されて初めて本来の力を発揮することができるのだ。その新たに解放された力の中でも特に重要なのが固有術式ユニークコードと呼ばれる魔法だ。一人一つ、その当人にしか使えない特殊な魔法で、これをベースにして自分の戦闘スタイルを確立させていくことになる。

 今日は新人二人がその動作確認をするということで、私と五月がサポート役として新田さんに召集されたわけだ。術式コード自体は提供者プロバイダーにもらったものだが、彼らは必要最低限の情報しか開示しないので、実際に使ってみるまでどんな魔法が飛び出すかはわからない。中にはいきなりビームをぶっ放して施設の一部を破壊したなんて例もあるから油断はできない。


『それじゃあまずは間宮さんからお願い』


「あ、はい……」


 白を基調とした可愛らしいデザインの装衣に身を包んだ間宮さんが答える。詳しいことはわからないが、どうやら魔法少女の見た目は変身者の趣向を反映したものになるらしい。実際私は地味な黒コートだし、メイなんか普段の格好とほぼ変わらない。


「じゃあ、いきます。……術式コード聖域ヘブン


 そう唱えると同時に何かがぶつかるような激しい音がシェルターに響く。とっさに身構えるが数秒経ってもそれ以上変化は起こらない。間宮さんの周りにはうっすらと壁のような物が見える。そしてその足元はクレーターのようにへこんでいた。


「あの……これは……?」


「うーん、なんか守護シールドに似てるねぇ。防御系の魔法かな」


「常時発動型の防壁……、守護シールドと違って空間に固定されることなく使用者の周囲を守る。直接敵に接触することで攻撃することもできる。……そんな感じかな」


「おお、なんかかっこいいですね!」


『さすが瀬戸さんね。……データは記録したわ、次は九条さんもお願い』


「了解です!」


 元気よく答える九条さんは、ちょっと独特な装衣をまとっている。一言で言うとチアガールの親玉といった感じだろうか。機能性を重視したスポーティなデザインの中に今時の可愛らしさが散りばめられている。


術式コード魔球スフィア!」


 再び身構える私たちだったが、今度は特に異変は見受けられない。ただ九条さんの目の前にサッカーボールくらいの光る球体が現れただけだ。


「……え、これだけっすか!?」


「瀬戸、これってさ……」


「うん、あんまり近づかない方が良いと思う。……多分、爆発する」


「ええ!?」


『二人には何かわかるの? できれば説明して頂戴』


「わかるっていうか直感なんだけど、提供者プロバイダー連中は基本物騒だからハズレの術式コードってのは無いわけ。で、この球が攻撃に使えるとしたら爆弾くらいしかないだろうなっていう」


「多分九条さんの意思で起爆できるはず。距離を取ってからやってみて」


「えーと……こう?」


 その瞬間、球体が炸裂し爆音と衝撃がシェルターに響き渡る。やはり私たちの読みは当たっていたようだ。


「なかなか威力あるねぇ。うっかりくらってたら怪我するところだったよ」


「お、おお……これが、私の魔法……!」


『うーん、ちょっと扱い方が難しそうね。まあその辺はこっちでも検討しておくわ。皆お疲れ様』


 後は今日取れたデータを元にそれぞれの魔法少女に合った武器が支給され、前線で戦う準備が整うわけだ。メイのように術式コードと武器が一つになって初めて真価を発揮する場合もあるから、どんな武器を使うかというのも大切なことだ。


「あ、そうそう。二人とも名前は決まった? そろそろ登録しないとなんだけど」


 シェルターから出たところで新人二人がそう声をかけられる。魔法少女が本名とは別の名前で呼ばれるのは単純にプライバシー保護のためでそれ以上の意味はない。なので余程ふざけた名前でない限りどんなものでも認可される。私自身セブンスなんて五分くらいで考えたものだし、中にはドリームスターライトなんて長ったらしい名前の魔法少女もいる。


「うーん、なんかまだいい感じのが思いつかないんですよね」


「私もまだで……すみません……」


「そうねぇ……いっそ先輩たちに決めてもらうっていうのはどう?」


「ええ? いいんですか、それ」


「おお、いいじゃん、いいじゃん。何にしよっかなぁ」


「その……先輩たちは、どうやって考えたんですか……?」


「どうっていうか……単純に名前から取っただけかな」


「七海だからセブンス、五月だからメイ。こういうのはシンプルな方がいいんだよ」


「九条真希……九条真希……うーん」


「ナインとかでいいんじゃない? セブンスの後輩なんだし」


「じゃあ……私は、美空……だから……」


「……スカイ、とか? 多分被ってはいないはず」


「ナインとスカイ、いいじゃない。じゃあこれで登録しとくわね」


 そう言って新田さんはさっさと行ってしまう。他人の名前だからと適当に考えたわけでもないが、こんなあっさり決めてしまってもいいんだろうか。


「その、本当にあれでよかったの?」


「あ、はい……。先輩がつけてくれた名前なら……」


「……そう?」


 まあ結局その名前の良し悪しを決めるのはこの子たちの今後の活躍だ。いつかその名を誇れる日が来るよう、私たちが教え導いてあげなければ。彼女たちを見ているとそんな気分にさせられる。……私は、セブンスという名を誇れるようになっただろうか。そんな問いがふと頭の中に浮かんだ。

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