14.マジカル・センコウカイギⅡ
その後も幾人かの候補について議論が重ねられるが、なかなか採用という結論には至らない。はっきり言ってしまえば現時点では皆、それほど大きな差があるわけではないのだ。やはり最終的には面接官の心証が鍵になってくる。
「そうですね……新田さんは誰か印象に残った子はいますか?」
「うーん、インパクトって意味ではやっぱり十八番の子ですかね。ただやはりまだ十五歳ですから、能力的にやや不安が残るところではありますね」
「九条真希さん……確か、自分が最高の魔法少女になってみせると言った子ですね。そういう思い切りの良さは私も嫌いではありません」
「九条……!」
「おや、瀬戸君もしかして知り合いですか?」
「あ、いや、なんでもないです……。その、支部長はこの子のことどう思いますか?」
「そうですね……。彼女の持つ積極性が実戦においてどのような影響を与えるか、だと思います。ここに関しては私では判断のしようがありませんから、ぜひ瀬戸君の意見を聞きたいです」
「えっと……そうですね。これはちょっと感覚的な話になって申し訳ないんですけど、さっきの間宮さんと一緒にやっていくならむしろこういう子の方が良いとは思います」
「そうなの? なんだか馬が合わなさそうに思えるけど」
「各人の連携については問題ありません。私もできる限り指導しますし、なにより理沙がついてます。そのうえで、理沙は良くも悪くも他人に合わせるところがあるので、タイプの違う子たちの方がバランスが取れるかなぁ、と」
「そういえば瀬戸さんと水谷さんも最初の頃はよく喧嘩してたわね」
「あれはあいつが悪いんです。何もかもいい加減で適当でまるで緊張感がない……そのせいでどれだけ迷惑を被ったか……」
「でも今は現役屈指の名コンビじゃない。私も鼻が高いわ」
「……なんか素直には喜べないですね」
しばらくじっと何かを考えているようだった支部長も、ついにペンを取り出し十八に丸をつけた。これで私自身もあの広島支部のジンクスに少なからず加担してしまったことになる。文句を言われないためには彼女たちを一人前の魔法少女にするしかない。
「とりあえずこの二人で申請しようと思います。瀬戸君の推薦なら司令も文句はないでしょう。お二人とも、お疲れさまでした」
これでようやく普段通りの生活に戻れる。見学会だの面接官だのはもうこれっきりだ。まあ、いい経験になったと言えなくもないが。
「でも支部長、あの質問ずっと続けてたんですね」
「ええ、我ながらいい質問だと思いますよ。なんせ瀬戸君という逸材を見つけられたんですから」
「あ、ちなみに理沙はなんて答えたんですか?」
「おや、三上君から聞いていませんか。なるほど……」
「え?」
「これは私の口からは言わない方がいいでしょうね」
そう言って支部長は去っていってしまった。
「あれ、会議もう終わったんですか?」
「うん。あっさり決まっちゃった」
特にすることもなくなったので待機所に行くと、理沙が一人で本を読んでいた。少し前にネットで話題になっていた小説だ。いつか読もうかなと思いつつ結局スルーしてしまったので内容はわからない。
「それで、どんな子ですか?」
「んー、なんか大人しそうな子と元気の良さそうな子。あ、あと九条って名前だった」
「九条……! これはいよいよ偶然では済まされなくなってきましたね」
「まあでも結果としてうまくいってるんだし、そんなに気にしなくてもいいんじゃない?」
「うーん、そういうものですか」
実際採用に至った経緯はちゃんと存在してるわけだし、そのうえで偶然そうなったというのならむしろ縁起の良いことかもしれない。それに今回面接に加わったことで、支部長には支部長なりの考えがちゃんとあるんだと感じることができた。私たち現場の人間が過度に干渉する必要はないだろう。
「それと支部長がちょっと気になること言ってたんだけど」
「支部長が? なんでしょうか」
「理沙は自分の面接の時のこと覚えてる?」
「はい、死ぬほど準備していきましたからだいたい覚えてます」
「じゃあさ、支部長の『最高の魔法少女とは何か?』って質問、どう答えた?」
「え」
理沙はすぐには答えない。珍しく動揺しているようだ。私や五月以上に突飛な答えを理沙が言うとは思えないが、どうも他人には言いづらいらしい。
「その、支部長は何か言ってましたか……?」
「私の口からは言わない方が良いって。だから本人に直接聞こうかなと」
「あー……いや、なるほど……そうですか」
「その、言いたくなかったら別にいいよ。ちょっと気になったってだけだから」
「あー、その、違うんです。だから……言います、いや、言わせてください!」
「おお……? どしたの、急に改まって」
「その……セブンス、です」
「……え? それってどういう……」
「最高の魔法少女はセブンスです。……そう答えました」
「……ええ!? いや、私なんて、そんな……」
「……ずっと魔法少女に憧れてました。でも自分の意見とかはっきり言うの苦手で……やっぱり魔法少女になれば危険と隣り合わせの日々になるわけですから、親にもなかなか言い出せなくて。そんな時、セブンスの存在を知ったんです」
「……私、どんな感じだった?」
「すごく異質で、他の魔法少女とは違う……そんな風に見えました。皆流行りに乗っかって、元気で明るいキラキラしたイメージを作ろうと必死になってる中で、セブンスだけはありのままの自分を貫いている。それがすごくかっこよくて、私もこうなりたいって、そう思ったんです。もしセブンスに出会ってなかったら、きっと最後まで魔法少女になりたいって言えなかったと思います。セブンスが私の運命を変えてくれたんです」
私はただずっと勝つことだけを考えてきた。周りからどう見られているかなんて、魔法少女にとってはどうでもいいことだ。たとえ誰からも応援されなくても、ずっと戦い続けるつもりでいた。だけどそんな私を見てくれている子がいた。私から勇気をもらったと言ってくれる子がいた。
「先輩、私、先輩に会えてよかった。瀬戸七海は、私にとって最高の魔法少女です」
ああ、こういう時はなんて言えばいいんだろう。こみあげるものをうまく言葉にできない。ここでビシッと決めれないあたり、やっぱり私は先輩としての出来はあまりよくないらしい。
「……支部長には感謝しないとね」
「はい!」
魔法少女になってよかった。理沙のおかげで、初めてそう思うことができた。お礼を言わなきゃいけないのは私の方だな。ただ今言うのはなんとなく気恥ずかしいので、理沙の誕生日まで取っておくことにした。その日までは私もここに居続けようとあらためてそう思った。
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