06.マジカル・オフノヒ
普段私たちがいる広島支部は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島をまるごと対
今日は正午に昼ごはんを済ませてから外に出たわけだが、書店につく頃には一時過ぎになっていた。七時までには帰らないといけないので、寄り道はせずにこのまま本をあさることにする。特にジャンルにはこだわりなくその時々で気になったものを読むようにしているが、今日は明確な目的が一つある。目当ての場所は入ってすぐ、比較的目につきやすい場所にあった。「ビジネス・企業」と書かれたその本棚はいつもなら確実にスルーしていただろう。今も若干立ち寄り難さを感じつつも、役に立ちそうな本がないか探していく。しかし端から端まで見ても理想に近い本は見当たらない。ある程度想定はしていたが、まったくどうしたものか。
そもそも面接官というのは一体誰からノウハウを教わっているのだろうか。というか面接官から見た場合、面接における成功って具体的になんなんだろうか。スカウトのように自分から人材を探しに行けるならともかく、やってきた人間をふるいにかけることしかできない以上、面接官自身の能力は関係ないようにも思えてくる。肩書的には私は公務員ということになるが、事務作業なんてほとんどしたことはないし、普通の社会人の感覚というのはさっぱりわからない。色々考えすぎて逆に頭が回らなくなってきた。知らないことはしょうがない。知っていることから何か手がかりを探そう。そうなると思い浮かぶのは、四年前に受けた私自身の魔法少女採用面接だ。
魔法少女は十代の女の子なら誰でもなれるわけではない。全国で健康診断と一緒に実施されている適性検査を受けて、そこで適性ありと判断されて初めてスタートラインに立てる。適合者の割合はおおよそ三百人に一人。その中から希望者のみが集められ、魔法少女候補生として一年間訓練を重ねる。そしてその候補生たちが採用面接を受け、それに合格した者だけが晴れて魔法少女になることができる。毎年採用されるのは十人程度、倍率百倍超えの狭き門だ。当然受験などと同じように落ちてしまう人間もいるし、二回目の面接を受けるためにいわゆる浪人をする候補生も少なからず存在する。そんな中、幸いにも私は最初の面接で魔法少女になることができた。同期は十二人、その中で一発採用されたのは私と五月、そして本部のあいつだけだった。そしてその時の面接官が他でもないうちの支部長だったのである。支部長たっての希望で私と五月は広島支部に配属となり、今現在に至る。私が瀬戸だから広島配属になったんだというのは悪い冗談だ。……支部長のことだから、絶対にない、とは言い切れないけど。緊張していたから面接で何をしゃべったかは曖昧だけど、一つだけはっきりと覚えていることがある。質問もあらかた終わって、他の面接官たちが手元のメモに何か書き込んでいる時、支部長だけが私の目をまっすぐ見て、こう質問してきた。
「最高の魔法少女って、どんな魔法少女だと思いますか?」
それは支部長が自分自身に問いかけているようでもあった。私はその問いになんと答えたんだったか。また今度会った時にでも聞いておこう。しかしこれといって面接に役立ちそうな記憶は思い出せない。まだ時間はあるし、他の書店にも行ってみようか。
そう考えていた時、不意にけたたましいサイレンの音が鳴り響いた。街で聞くのは初めてだが、いつも聞いているあの音に違いない。外に出るとすでに大勢の人が道にあふれ、地下シェルター目指して移動を始めている。どこかのスピーカーからアナウンスが聞こえてくる。
『緊急避難警報が発令されました。速やかに安全な場所に移動してください。繰り返します——』
スマホを取り出して連絡を取ろうとするがどこにも繋がらない。電波障害が発生するほどのウェーブとなると、深度五以上はあるだろう。今日は五月も待機してくれているはずだが、こんな街のど真ん中で戦闘をすればどこに被害が出てもおかしくない。一刻も早く応援に向かわないと。一瞬のためらいはあったが、住民の安全が最優先だ。開けた交差点まで移動して、リングを右手の薬指にはめる。
「
突如放たれた眩い光に、通行人が一斉に振り返る。数秒の間の後、群衆からどよめきが起こる。
「え、セブンス!?」
「やば、本物じゃん」
「マジかよ! 俺魔法見てぇ!」
どうもここに居座ると避難の妨げになりそうだ。ウェーブの発生源はだいたいつかめたし、早いとこ移動しよう。
「
唱え終わると同時に地面を蹴り上げ、一気に上空へ浮上する。ざっと見渡した限りだとまだ
「
溢れだした魔力が空間を歪めながら、私の体をゆっくりと包み込む。ああ、この水底に沈んでいくような感覚がひどく懐かしい。私の本来の居場所はこちらなのかもしれない、と錯覚しかけることすらある。これが現代の魔法、異界からもたらされた人智を超えた力。私の体は水に溶ける絵の具のようにゆるゆるとほどけて、やがて完全にその姿を消した。
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