03.マジカル・ケンガクカイ
結局健診の結果、特に異常はないということがわかり、私は引き続き魔法少女として日々を過ごしている。新田さんからもこれといって何か言われたりはしなかったし、十代でいる間は私が望む限りその任を解かれることはなさそうだ。それ自体は喜ばしいことではあるが、逆に言えば辞め時を逃したという見方もできる。といっても引退後のプランは相変わらずまったくの白紙なんだけども。
魔法少女の仕事の大半は、待機所で出動要請を待つことだ。待機中は基本的に何もする事がない。いざという時に迅速に対応するためには何もしない方がいいのだ。一人の時は読書、二人の時はだらだら駄弁っている。五月の放浪癖のせいで三人揃うことは稀だ。今日も理沙と二人で他愛もない話をしながら、時間が過ぎるのを待っている。
「そういえば聞きました? 見学会の話」
「見学会? なにそれ」
理沙はここに来た時から明るく社交的で、職員さんたちともよくやり取りしているのを見かける。内にこもりがちな私やマイペースな五月とは大違いだ。そのおかげで理沙からは色々な最新情報を聞くことができる。本当によくできた後輩だ。
「なんか今年からやるみたいですよ。東京の本部でやってみたらすごく評判が良かったから、うちでもやってみようって話になってるらしいです」
「見学っていっても、ここ一応軍事施設だよ? 一般人がそんなの見てどうするの?」
「そういうのが好きな人もいるじゃないですか。それに魔法少女を間近で見る貴重な機会ですし」
「え、私たちもなんかするの?」
「え、なんかしませんか? 普通」
魔法少女というと勝手にキラキラしたイメージを抱く人も多いだろうけどそれは間違いだ。もちろんそういう子もいるけど、ここに私という反例がいる。魔法少女は必然的に未成年の女子しかいないから、そのプライバシーは守られるべきだ、というのが今までの風潮だった。しかし最近は一部の魔法少女たちのメディアへの露出が多くなり、その結果スポーツ選手やアイドルに近い存在になりつつある。応援されて悪い気はしないから特に不満はないが、戦うことしか能のない私にそれ以上の何かを求められても困る。
「でも具体的になにするの? 歌とかダンスは無理だよ私」
「さすがにそれはしなくていいと思いますよ。ちょっと楽しそうですけど」
「えぇ……勘弁してよ」
理沙は頼まれたら本当にやってしまいそうな人の好さがあるからかえって不安だ。五月も五月で妙にノリのいいところがあるから安心できない。
「あ、そういえば本部の方では質問企画とかやってましたよ。ネットに動画があがってました」
「質問?」
「魔法少女になったきっかけは何ですか? とか、そういうのを聞く簡単なインタビューみたいなやつです」
「へえー」
「先輩はなんですか? きっかけ」
「え、そうだな……なんか、成り行き?」
「成り行きって……もっとちゃんと考えてくださいよ」
「理沙はどうなの」
「私は……憧れだったんです、魔法少女。だからもし適性があったら、本気で目指してみようってずっと思ってました」
「いいじゃん、なんかちゃんとしてて」
「……先輩、私——」
理沙が何か言いかけた時、急にけたたましいサイレンの音が鳴り響く。
『観測所より出動要請、深度二のウェーブを確認。三番ゲートよりただちに出撃せよ。繰り返す——』
「二か」
「私行ってきます」
「ん、頼んだ」
深度の値が大きくなるほど現れる
それにしても、見学会。確かにここ数年は魔法少女志望者が増えているらしいし、それなりの需要はあるのかもしれない。けどやっぱり魔法少女がこれだけ脚光を浴びるようになったのは、本部のあいつの影響だろう。向こうで人気を博したというのは大いに結構だが、果たしてうちでやっても同じようにいくだろうか。可愛げのある理沙ならともかく、私や五月が周りにきゃあきゃあ言われてる光景はどうも想像できない。
「お、さすがに理沙は早いねぇ」
声のした方を見ると待機所のドアから五月が顔を覗かせていた。
「あんたいたんだ」
「昼寝してたのに起こされちった」
五月はさっきまで理沙がいた椅子に座ってあくびをする。やっぱりこいつも世間の魔法少女像からはだいぶかけ離れている。
「そういえば見学会の話知ってる?」
「見学会? なにそれ」
「まあ、あんたが知ってるわけないか」
「それ私らもなんかすんの?」
「さあ」
「いいじゃん、せっかくだしなんかしようよ。あ、皆で歌とか歌う?」
「却下」
どうにも話が良くない方に転がりつつある。安易に見学会のことを話すべきではなかった。どうしたものかと思案していると、また指令室から伝令が入る。
『トライが目標を鎮圧、これより帰投する。セブンスは引き続き待機せよ』
「私もいるんだけどね」
「あんたは非番でしょ」
理沙が出撃してからまだ十分ちょっとしか経っていない。深度二程度であれば、もはや相手にならないということだろう。理沙の実力はすでに同世代の中では一二を争うほどのものになっている。私が育てた、とまでは言わないが先輩として鼻が高い。
「ちょっと理沙にも聞いてくる」
そう言って五月は席を立つなりとっとと行ってしまう。聞いてくるって、何を? まさか本気で歌うつもりなのか。このままではまずい。どうにか見学会が開かれるまでに手を打たなければ……! 私は待機所で一人、逃げ道を探る。見学会の方が
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