112.親戚に会いに行こう
描いた絵の横に、新しい紙を引き寄せて繋げるように置いた。顔をあげたエリュへ微笑んで、白い紙を指差す。
「エリュの新しい家族を、ここに描いて欲しいんだ。一緒に会いに行こう? 待たせてごめんね」
「ううん。シェンはいつも忙しいから。私は待ってるの平気」
寂しい思いを隠していたのか。シェンは吐きそうになった溜め息を我慢し、にっこりと笑う。失敗したと思うのに、振り返っても同じように振る舞う自分が想像できて。反省なんて役に立たないと思った。
シェンの複雑な思いを知っているみたいに、銀髪の幼女は手を差し伸べる。
「新しい家族、私は楽しみ」
「うん。リンカやナイジェルは明日にしてもらって、先に顔を見に行くよ。ベリアルが一緒に来てくれるか、聞いてみる」
「ベルも? リリンは?」
「リリンはお仕事で宮殿の外にいるから、明日ね」
リンカやナイジェルと一緒に。そう説明したら、すぐに頷いた。聞き分けがよすぎて、可哀想なほど。エリュに我慢をさせないよう、僕の役割を減らそう。シェンはそう決めて手を握った。
離宮までは距離がある。青宮殿からもっとも離れた場所なので、転移を使うのが一般的だった。今回は少し変則的に。離宮の手前に飛んだ。そこから手を繋いで歩く。いきなり会わせるより、新しい皇族について理解して欲しかった。それが自己満足だとしても。
「あの離宮だよ。お母さんのアンバー、娘のアゲート、アンバーの弟ルチル、アゲートの従兄弟でジェード。4人がエリュの遠い親戚なんだ」
名前を口の中で繰り返し、エリュは首を傾げた。親戚という概念が、今までの彼女になかったことは知っている。連絡済みのベリアルが到着するまで、ゆっくり歩を進め始めた。
「親戚ってどんな人?」
性格や人柄を問う声に聞こえるが、実際は「親戚」という存在に対する質問だった。間違わずに受け止め、シェンはにっこり笑う。
「シェンのご先祖様で初代皇帝のミランダ、こないだお話ししたよね」
「うん」
「今から会う4人は、ミランダの弟がご先祖様なんだよ」
「うん?」
ここで難しいと感じたエリュが足を止める。合わせて立ち止まったシェンが、違う表現を選んだ。
「ミランダの弟はミランダと同じ親でしょ?」
「うん」
今度は分かる。大きく頷いたエリュに歩くよう促して、手を引っ張った。一緒に歩き出したエリュの顔を見ながら、シェンは再び親戚についての概念を話す。
「エリュと同じ先祖を持つ人がいれば、親戚なんだよ」
「そうなんだ! じゃあ、仲良くなれる?」
一瞬目を見開いた後、シェンは笑顔で頷いた。
「こんなに可愛いエリュを嫌う人なんていないよ。ずっと離宮で暮らす親戚だもん。仲良くしようね」
嬉しそうに速度を上げるエリュと並んで走りながら、あの4人を思い浮かべる。善良な彼らはエリュを受け入れてくれるはず。公爵家の者と結婚させるから、大きなトラブルはない。そう思うのに、なぜか胸騒ぎがした。
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