111.いつか話すなら自分の口で

 離宮でのお見合いが終わり、あっという間に彼や彼女らの婚約が整った。各公爵家から皇族の配偶者となるべく、それぞれが準備をして離宮に与えられた部屋に入る。


 さすがにこの段階になれば、勘づく者が現れた。リンカもその一人だ。離宮に近づいたこともないのに、様々な情報を複合的に判断してシェンにぶつけた。


「エリュの親族がいるとか」


「最近見つかったんだよね」


「そうか、随分と都合のいいタイミングだな」


「偶然なんて、そんなものだよ」


 にっこり笑って誤魔化す黒髪幼女に、リンカは額を押さえて溜め息を吐いた。それから握り拳を作り、こつんとシェンの頭を叩く。


「本当の幼女じゃないと分かっているが、その外見の間は振る舞ってくれ。頼りないだろうが、相談して欲しい」


 エリュは不安があれば吐き出すタイプだ。隠せず顔や態度に出るだろう。皇帝として問題あるが、幼子としては正しい。感情や表情を隠す術は、もっと大人になって身につければ済む話だった。王族として育ったリンカは、そう考える。


 だが、シェンは全く違う。蛇神であり、長寿で知られる妖精族の長老や、魔族の最年長を誇る吸血種を含めても、誰より長く生きた。経験も豊かで、策略も見事にこなすはず。だからこそ心配だった。きっと自分を追い詰めるタイプだと思うから。


 彼女の心配を受けたシェンは、はぁと大きく息を吐き出した。頭の上に受けた拳が、妙に痛い。実際はたいした衝撃を感じなかったのに。黒髪を手で撫でながら尋ねる。


「ねえ、その話……誰から聞いたの」


「それがな、ナイジェルだ。彼が仕入れた話だから信じた」


「エリュは知ってる?」


「一緒に聞いて、目を輝かせていた」


 うわぁ……そんな声が似合うポーズでしゃがみ込み、頭を抱えたシェン。しばらく唸った後、苦笑いして立ち上がった。


「うん、ずっと隠せるわけがないし。どっかから漏れるのは仕方ないとして、やっぱり会いたいって思うよね?」


 エリュの気持ちはそちらに傾いたでしょ? そう口にしたシェンを、ひょいっとリンカは抱き上げた。びっくりして絶句する神様を運び、彼女は笑う。


「分かってるなら教えてやれ。シェンの口から聞きたいと言ってたぞ」


 運ばれた先はリビング。室内ではエリュがお絵描きをしていた。少し離れたラグでナイジェルが昼寝をする。休日の穏やかな午後を楽しむ部屋で、シェンは覚悟を決めた。自分でも言った通りだ。ずっと隠すわけにいかない。


 いつか話すなら自分の口から。覚悟を決めてエリュに近づいた。描いているのは4人が仲良く手を繋ぐ姿だ。


「上手に描けてるね。大切なお話があるんだけど……時間をくれる? エリュ」

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