110.予想以上の成果を得た

 お茶会は大成功、なのかな。あちこちに出来たグループを見ながら、シェンはお見合いの結果をまとめ始めた。


 アンバーの娘アゲートは、サザランド公爵の孫である黒髪の青年といい感じだ。よく見たら黒髪じゃなくて紺色かな? 隣にいる弟はそっくりだから、双子のようだ。どちらを選ぶか分からないけど、3人で仲良く話し込んでいた。頬を赤く染めてる様子から、一目惚れみたい。


 アンバー自身は甥のジェードの隣に腰掛け、ガスター公爵家の長女との間を取り持っていた。自分のことは後回しにする辺り、アンバーらしいな。と思っていたら、アディソン公爵弟のクラークが、積極的にアンバーにアピールしている。


 手を握り何か囁く。彼の感情が昂って、肌が紅潮してるから本気みたいだ。おやおや、手の甲に唇を寄せたと思ったら、裏返して手のひらに押し付けた。家の為の結婚ではなく、恋愛結婚が望ましいからいいことだよ。アンバーも満更ではない様子。


 彼女の弟ルチルは、サザランド公爵の孫娘と話し込んでいた。意気投合した感じはあるけど、まだ男女の友情止まりかな。今後の展開を待った方がよさそう。この離宮へ遊びにくる許可を出しておけば、自然と距離が近づきそうな気配がある。


 ほぼ全員が誰かとくっついてる状況で、ランドル爺ことサザランド公爵の残った孫娘が、ガスター公爵家の三男に言い寄っている。これは意外なカップル誕生かも。


 魔族は長生きなことも手伝い、婚約者を決める時期が遅い。というより、結婚が決まってから直前に婚約することも少なくなかった。家を継ぐ嫡子以外は恋愛結婚中心で、中には「惚れた相手がいない」を理由に独身を貫く貴族もいる。人族や妖精族と違い、うんざりするほど人生が長いからだろう。離婚や再婚も珍しくなかった。


 他国の貴族や王族には理解し難いかも。肘をついて考えていたシェンの隣に、紺色の髪の青年が近づいた。ランドルの孫の一人だ。双子の片割れは、優雅に一礼して挨拶をした。


「シェン様、お隣よろしいでしょうか」


「構わないよ。お茶会だもの、誰と話そうと自由だからね」


 堅苦しい作法は不要だ。そう告げられ、彼は頷いた。隣に座り、互いの顔を見ないまま話し始める。


「今日のお茶会は、お見合いと捉えて構いませんか」


「うん? 誰かに言われたの?」


 ランドルは口が硬い方だと思ったけど。質問で返したシェンに、青年は顔を向けた。穏やかな笑みを浮かべ、シェンの横顔に再び声をかける。


「誰からも聞いておりませんが、この状況を見れば察することは可能です。家族の中で婚約者がいない男女が集められ、身分を伏せたお相手は4人とも独身となれば」


 そこで意味ありげに言葉を止めた。


「兄はアゲート嬢といい感じです。僕は弾き出されてしまいました」


 苦笑いする彼の肩をぽんと叩く。


「安心して、もし婚約者が必要なら選んであげるから」


 察しのいい青年は、文官向きだな。ベリアルの下で働いてみたらどうか。そんな打診をしながら、シェンは会場となった離宮の部屋を見回す。庭に続く扉を開放したため、カップル成立の二人が外へ出ていく様子が見えた。


 考えすぎだったのかもね。彼や彼女らが幸せなら、それでいい。自分達で選ぶ未来なのだから。皇族は窮屈かも知れないが、山奥に隠れ住むより自由で快適だ。今後は選んだ人と結婚して幸せになればいい。その幸せが、いずれ回り回って国を助ける皇族の増加に繋がれば……。


 蛇神は都合のいい言い訳を飲み込んだ。自己弁護はしない、そう決めて明るい未来を夢見るように窓の外に目を向けた。

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