105.同じ宮殿に男女混合は問題あり?

 ナイジェルの発言を受けて、そういえば男性が一人だったと悩むベリアル。青宮殿に安全な男性を住まわせる必要性に気づいた。皇帝陛下であるエリュ、一応幼女姿のシェン、妖精族の王姪リンカ。侍女も含め、すべて女性だった。


「安心していいよ。僕がいるからね、間違いは起きない」


 シェンがそう請け負うものの、外部がそう見てくれるか分からない。噂の一番怖いところは、事実でなくても広がる部分だった。そうであって欲しいと願う内容なら、まったくの出鱈目でも広まる。宮殿や王宮の噂の怖さを知るナイジェルも唸った。


「そっか、友人関係とはいえ……問題だな」


 大国の王宮という伏魔殿を生き抜いた王子だ。危険性と今後の対策を練っていく。


「一番簡単なのは、この宮殿を男子禁制にすること。その次が、安全な男性に部屋を与えること、くらいか」


「ナイジェル、いなくなるの?」


 悲しそうなエリュの声に、シェンは男子禁制を案から排除した。となれば、誰か男性を住まわせる必要がある。使用人のメレディスを男性と紹介する手があるものの、彼女の性を捻じ曲げて喧伝するのは気が引けた。何より、使用人は男女の枠に入らない。この場合の男性は、貴族またはそれに準じた社会的な肩書きを……。


 そこでシェンは斜め後ろを振り返った。じっくり頭の先から爪先まで確認し、大きく頷く。


「ベリアルに部屋を与えようよ」


「あ、それはいい案だ」


 リンカもすぐに意図を悟った。ナイジェルは大喜びだ。さっきの言い訳で関係が改善しているし、同性がいれば気が楽だった。友人になったばかりの彼女らと離れなくて済む。


「私が、ですか」


「リリンの部屋も作ろう! よし、そう決まったら急がなくちゃ。ケイト、バーサ、準備して」


「承知いたしました」


 侍女達はすぐさま動いた。議会の承認もへったくれもない。守護神が認めれば、それでいい。ここは蛇神シェーシャが住まう神殿と同じだった。青宮殿は最古の建物であり、シェーシャのお気に入りだ。そこに加護を与えた皇族や王族を集めて住む、そう宣言されたら魔族は反対できなかった。


「うん。無事に片付いてほっとした」


「早めに気づいてよかったな」


 誰かに指摘されてからでは、面倒なことになっていた。そう笑うリンカとハイタッチして、大喜びで手を伸ばすエリュとも手を合わせる。はしゃいだナイジェルも加わり、リビングは大盛り上がりだった。


「どの部屋を使いたい?」


「一番玄関に近い部屋で結構です」


「あ、無理。そこは物置に使ってる」


 どこでもいい口振りなのに、指定すると拒否される。結局ナイジェルの隣の部屋をあてがわれた。決まっているなら聞かないで欲しい、後にベリアルはそう嘆いた。聞いて大笑いしたリリンは、リンカとナイジェルに挟まれた部屋だ。男女なので緩衝地帯として設けられた部屋だったが、騎士団長で将軍のリリンが使うなら問題なしと判断された。


「明日の朝、皆でご飯できる?」


「朝練習の後になりますが合流します」


「朝議を終わらせて駆けつけます」


 リリンもベリアルも、満更ではない様子。皆してエリュに甘いんだよね、一番甘い癖にそう呟いたシェンは頬を緩めた。

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