104.守りたい風景がここにある

 連れ帰ったのは4人、今は使われていない奥の離宮をあてがった。シェンはお土産にと購入した果物を揺らしながら、エリュ達が過ごすリビングへ顔を出す。


「シェン! おかえり」


「ただいま、エリュ。これお土産ね」


 駆け寄った銀髪の幼女を抱き締め、くるくると回って足を止める。リンカは読書の手を止めて近づいた。本を開いたまま動かないナイジェルは、熟睡しているらしい。彼らしいと笑って、テーブルの上に果物を並べた。


 赤、黄色、緑と色鮮やかな果物を手に取ったバーサがくるくると剥いていく。普段ドジだと言っても、そこは侍女だ。芯を取って切り終えた果物をお皿に並べた。


「お仕事終わったの?」


「うん、今日の分は終わりだよ」


 エリュが聞きたいのは仕事の進捗状況ではなく、この後一緒に過ごせるか。分かっているので、シェンは笑顔で返した。飛び付いたエリュはフォークを刺した赤い実をひとつ、シェンの前に差し出す。


「あーん、して」


「あーん」


 素直に口を開けたシェンに食べさせ「美味しい?」と尋ねる。自分が買ってきたシェンだが、もちろんと頷いた。


「相変わらず仲良くて羨ましいことだ」


 リンカがそう呟くと、慌てたエリュがまたフォークで黄色い桃を差し出した。


「私に? ありがとう」


 リンカは素直に桃をもらう。黄色い実の桃は甘酸っぱい。嬉しそうなリンカがお礼に、白いライチに似た実をエリュに食べさせた。お互いに好きな物を摘めばいいのに、相手に食べさせてばかり。シェンもリンカやエリュに果物を差し出す不思議な光景が広がるなか、聞き覚えのある声が響いた。


「こりゃまた、仲がいいわね。皆のメレディスよ」


 笑いながら入ってきたメレディスが大げさに手を広げる。目を見開いたエリュが駆け出し、つられてリンカも駆け寄った。


「メレディス、今日から一緒?」


 嬉しそうなエリュの頭を撫でて、メレディスは頷いた。後ろで侍女のケイトが一礼する。彼女に迎えに行ってくれるよう頼んでおいたが、正解だった。彼女のお眼鏡に適ったらしいオネエ様は、手にしていた荷物をどすんと置いてエリュを抱き上げた。


「シェン様は冷めてるわね」


「そうでもないよ。呼びに行くことを僕は知ってたから」


 それで興奮してないの。言い訳した僕の横を、ナイジェルが走り抜けた。そのままオネエ様の腹に体当たりする。


「おせぇよ! この建物で男は俺だけだったんだぞ!? メレディス」


「オネエ様とお呼びなさい。元の性別はともかく、今は女性よ」


 ぴしゃんと言い渡され、がくりとナイジェルが肩を落とした。


「また男一人かよ」


 女性ばかりで気が抜けないとぼやくが、先ほどまで熟睡していたのはナイジェル自身だ。充分すぎるほど寛いでいた。


「ベリアルと暮らせるよう手配しようか?」


 思いつきで発言したら、思いっきり首を横に振られた。


「冗談だろ、ベリアルは厳しいから嫌だ」


 後ろでショックを受けた顔で立ち尽くす宰相ベリアル。そっと教えるリンカ……びくりと肩を揺らしたナイジェルは慌てて言い訳を並べた。

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