87.お揃いのお土産をベリアルに

 昼食が終わると、メレディスの店を出て左へ曲がった。芝居小屋がある右側はすでに探検済みだ。左側は土産物を販売する出店が並んでいた。


 満腹なので、飲食物が並ぶ屋台を回っても、食指は動かない。ベリアルに促されて、小物を覗き始めた。そこで、エリュが「あっ!」と大きな声を上げる。


 注目を集めてしまったので、道の脇に避けた。気遣いがベリアルらしい。リリンなら、平気でそのまま道を塞ぐだろう。


「どうしました、エリュ様」


「あのね、ベルにあげるお土産、まだ渡してなかったの」


 昨日部屋に持ち帰って、鏡台の前に置いてきてしまった。リビングの部屋を披露したりしていて、すっかり忘れていたのだ。朝持って出るつもりだったのに。悔しそうな顔をするエリュへ、シェンがポシェットから袋を取り出した。


「はい、僕が持ってきたよ」


「え? あ、ありがとう!」


 もしエリュが思い出さなければ、帰ってから渡すよう促すつもりだった。持って来て正解だったと笑うシェンが頷く。袋の中を確認してから、ベリアルに渡した。


「これ、ベルの分のお土産。昨日の分だよ」


 にこにこと笑顔で渡され、ベリアルは袋を手の上で逆さにした。羽根の形をしたペンダントトップが転がり出る。革紐が付けられた飾りは、宝石の粉で緑に光っていた。


「素敵なお土産をありがとうございます」


 頬を緩めたベリアルに、全員が首の革紐を引っ張って見せた。


「リリンも含めて、6つある。持ち主指定があるから、他人に取られる心配はないぞ」


 奇妙な言い回しに目を凝らし、重ねがけされた魔法に驚いた。ベリアルが知る限り、これほど重ねたら発動しない。なのに、どの魔法も独立して発動可能な状態だった。物理攻撃や魔法からの防御、毒耐性など。結界機能も含まれている。


「これは……」


「すげぇだろ? シェンがやったんだ」


「国宝級ですよ」


 ナイジェルとリンカは、自慢げに自分のペンダントを眺めた。エリュは銀に光る自分のペンダントを服の下に戻す。


「大切にいたしますね。エリュ様、首にかけてもらえますか?」


「うん! 任せて」


 頼まれたのが嬉しくて、にこにこするエリュが、片膝をついたベリアルの首に革紐をかける。ツノに引っかからないよう注意したエリュが満足そうに笑った。


「出来た!」


「エリュ様、シェン様、ありがとうございます。リンカ様とナイジェル様も」


「私は銀で、シェンが黒っぽくて、リンカは赤。青がリリンだった。えっとナイジェルは金色、ベリアルが緑だよ」


「全部覚えているのですか? さすがですね」


 頭を撫でられ、驚いた顔をしてから頬を緩める。頭を撫でてもらったと興奮したエリュが、ベリアルに抱き着いた。そのまま抱き上げて歩き始める。


「エリュ! 甘えんぼだな」


「なんだ、羨ましいのか? ナイジェル」


「そ、そんなんじゃねえよ」


 からかったナイジェルの方が、リンカに笑われて顔を赤くする。久しぶりにベリアルと距離を詰めたエリュの幸せそうな笑顔は、シェン達の気持ちも温めた。

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