81.シェンが初めて庇護した皇帝
シェンの知るミランダは、祖父母の教えをしっかり守る子だった。若い女性が旅をすれば、すぐに危険な目に遭う。そのことを理解し、男装した。その結果としてあまりに似合いすぎて、誰も女性とは思わなかった。
両親を殺され、仇を探す途中でシェンと出会った。神として地位が確立したばかりのシェーシャに、ミランダは輝いて見えた。ギラギラした欲と裏腹に、達観した落ち着きと諦め。その調和が不思議で、心惹かれたシェンは付き合うことを決めたのだ。
「最終的にね、両親の仇は見つかったんだよ。それが魔族の最上位にいた吸血鬼だった。彼を倒したことで最強の魔族と認められ、ミランダは皇位に就いたんだ。加護を贈ったのはその時で、僕の最初の庇護者だったかな」
思い出しながら並べた事実に、リンカは寂しそうに頷いた。思っていた英雄と違う。それ以上に、ミランダの過酷な人生を悲しんでいるようだった。
大人達は顔を見合わせ、リリンもメレディスも余計なことを言わない。声を上げたのはエリュだった。
「ミランダおばあちゃんは、お願いを叶えたんだね。一人じゃなくてよかった」
悲しい思いをしたミランダの側に、シェンがいて良かった。一人では泣けないから。付け加えられた言葉に、失望の色はなかった。心から安心したと口にするエリュが、にっこりと笑う。
「……あのさ、どうやってエリュまで血が繋がるんだ?」
男装の麗人、つまり女性だ。だが他国に伝わるゲヘナ初代皇帝の英雄譚は、美しい妻を娶ったところまで描かれていた。女性が妻を娶っても、子は生まれないはず。初代皇帝の血筋は途絶えたのか。
ナイジェルの尤もな疑問に、シェンは肩を竦めて秘密をまたひとつ暴露した。
「ミランダの妻は両性具有だった。男であり女でもある。だから子どもはミランダが産んだし、間違いなく血が繋がってるよ」
そうじゃないと僕が血の匂いを追えないからね。ふふっと笑い軽い口調で告げた。妃の姿をした夫の子を産んだ事実に、ナイジェルはホッとした顔だった。
「なんだ、途中で血筋が途絶えてないなら安心した」
「そういえば、魔族は弱肉強食を国是とするのに、どうして皇帝が世襲制なの?」
リンカの質問に、リリンの顔色が変わった。この話題は難しい。シェンもうーんと唸る。真実を伝えるには、リンカの立場が微妙だった。他国の王族で、留学生。いずれは自国に帰る可能性がある子に、どこまで伝えるべきか。
「初代皇帝アンドレアの血を引く。そのことが重視されたからさ。実際、エリュの親の代まで強かったんだ」
話を逸らしてシェンが逃げる。何かを感じたようだが、リンカは素直に引き下がった。エリュの持つ能力は、その血筋による特殊性にある。その話をするには、まだ彼らの絆や立場が確立していなかった。
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