74.禁じられた夜更かしの楽しみ方

 答えられなかったシェンに、エリュはにっこり笑って手を引いた。


「帰ろう」


 青宮殿に帰って、居心地のいい部屋で過ごそう。そう誘う表情は大人びていた。まだ4歳の幼女は、数千年を生きる神を導く。


 まあいいか、考えるのは眠ってからでもいい。今はエリュといる時間を大切にしよう。気持ちを切り替えたシェンが手を握り返し、反対の手をナイジェルへ伸ばした。それを見たエリュも真似をして、リンカヘ手を伸ばす。手を繋いで宮殿へと急いだ。


「夜更かししてはいけませんよ。もうお休みください」


 去年より遅い時間まで広間にいたので、ベリアルにしっかり釘を刺された。


「はーい」


「わかりました」


 口々に返事をして手を振り、不安そうな宰相を見送る。一度自室へ戻った4人は……エリュの部屋に集まった。


「明日は街へ出れるんだよな、どこへ行く?」


「昨年と違うルートがいいな」


「護衛はリリンなの?」


 ナイジェルは浮かれて地図を広げ、希望を口にしたリンカの横で、エリュが首を傾げる。というのも、昨年はシェンが護衛を務めたのを羨ましがったためだ。今年こそ同行するとリリンは息巻いていた。


「街へ出て違うルートね。反対方向へ行ったらいいよ。芝居小屋があるはず。リリンが護衛しないと外へ出さないってさ」


 ベリアルの仕事を手伝った際に仕入れた情報を披露するシェンに、3人は目を輝かせた。諜報員みたいだと褒めながら、行きたい店を並べていく。それをリンカが素早く書き記した。


 6日間の予定を立てる楽しい時間も、睡魔に負けてしまう。最初に陥落したのは、意外にもナイジェルだった。到着して間もない彼は、まだ時差ボケの影響下にある。転移門を使った強行軍の疲れも、まだ残っていた。


 うとうとし始めたナイジェルをソファに寝かせ、そのまま女の子達は盛り上がった。リンカが干し果物を取り出し、それを齧りながら相談は続く。次はエリュだ。目をゴシゴシと擦り出し、ころんと寝転がった。


「急に寝るんだな」


 ナイジェルとは違う、そう匂わせたリンカだが口角が上がっている。微笑ましいと思っていた。自分の下に弟妹がいないリンカにとって、妹同然のエリュが可愛くて仕方ない。鼻っ柱の強いナイジェルも、弟のように感じていた。その点で、外見は幼女でも中身は成熟したシェンは違う。


 年上で神なのだから、と敬う気持ちはあった。同時に幼女姿のうちは、相応に扱いたいと思っている。幼い姿は、甘やかされたいシェンの無意識なのではないか。リンカの尊敬する祖母は、そう結論づけた。リンカもそう感じているのだ。


「子どもってさ、突然寝るんだよね。不思議」


 過去の皇帝やその家族を見守ってきた蛇神は、頬を緩めて笑った。目元が柔らかく下がる。年の離れた弟妹を甘やかすように、孫を慈しむように。


「はふっ、もう寝るぞ」


 なぜか胸が詰まって泣きそうになり、リンカはエリュの隣に潜り込む。明かりを消したシェンが「おやすみ」と挨拶をした。同様に挨拶を返し、上掛けを頭まで被る。見えない場所で、鼻を啜って……気づけば眠っていた。


 翌朝、全員が同じ部屋にいたことで夜更かしがバレる。失敗したと舌を出すシェンに、残る3人も真似をして。大笑いした侍女達は、ベリアルに内緒にすることを約束してくれた。

 

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