75.道に迷うのも楽しみのひとつ

 建国祭は、魔国ゲヘナで一番賑わう。街を散策する4人は、逸れないよう手を繋いでいた。面倒な仕事は初日で終わり、残った6日間を好きに過ごせるのだ。


「芝居小屋があるの、こっちだったか?」


「左側だろ」


 リンカは地図を片手に逆方向へ歩こうとし、ぼそっとナイジェルが指摘した。これが繰り返されると理解できる。リンカは極度の方向音痴だ。地図が読めないのではなく、単に方向感覚がおかしい。


「曲がったら地図を回すといい」


 シェンがそう教えた通りにしても、やっぱり曲がり角を間違えた。そもそも左折したのに地図を右に回したら迷うのも頷ける。


「リンカも苦手があるんだね」


 道に迷っても、エリュは楽しそうだ。少しくらい目的地に着くのが遅れても、気にしないのは器の大きさか。うろうろ歩き回る子ども達を見守るが、リリンは手出ししなかった。ベリアルなら先頭を切って案内するだろうけど。


 リリンとベリアルの性格は真逆だった。だからこそ協力し合えるのだ。いいコンビだと笑うシェンは、ふと目に入った店舗に並ぶ小物に足を止めた。


「買うの?」


「これ綺麗」


 不思議そうなナイジェルと違い、エリュは目を見開いた。高価な品ではないが、アクセサリーの部類だ。髪飾りだった。宝石を研磨した時に出る屑を吹き付け、きらきらと輝くよう加工される。理屈も価値も知っているが、懐かしくてひとつ手に取った。


 シェンの横で、エリュも選び始める。リンカはあれこれ相談に乗りながら、銀髪に似合う髪飾りを選んでエリュに当てた。その中から絞り込んでいく。


「僕はこれ」


 赤と黄色が重なるグラデーションの櫛を選んだ。


「あ、同じので色違い」


 エリュが偶然選んだのは、青と白のグラデーションだった。笑い合う二人の隣で、やはり同デザインで緑とオレンジの髪飾りを手にしたリンカへ、大声でナイジェルが叫んだ。


「狡い! 俺だけ付けられないじゃん!」


 外行きは「僕」を使うナイジェルが、本来の口調で抗議する。確かに短い髪だし、髪飾りは不要だろう。しかし髪飾りは購入することに決まった。こういう買い物では、女性の意見が強い。シェンが知る限り数十年前からの伝統? だった。


 代わりに小さなペンダントをお揃いで購入する。シェンは銀色、エリュは黒銀だ。羽根の形をしたペンダントトップは、宝石の粉で輝いている。子どもがお小遣いで購入できる程度の、ありふれた品だった。祭りの思い出に十分過ぎる。


「私は赤にしよう」


「うーん、金色がいいかな」


 リンカとナイジェルも色が決まり、同じデザインを四つ色違いで購入した。すぐに首から下げて、また手を繋ぐ。青と緑を購入したシェンが、数歩離れて護衛するリリンを手招きした。


「はい」


「どっちがいい?」


 くれるのかと目を見開いた後、嬉しそうに「お揃い」と呟くエリュの顔を見て青を選んだ。


「ではこちらを。緑はベリアルでしょうか」


「うん。他に色が被らないのがなくて」


 頷くシェンが、ふと気づいて羽根の飾りを眺め……笑顔で提案した。


「6個纏めてお守りにしようか!」

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